＊トリップをした少女＊【テニプリ】part6

273話*　かぞくのこと。５* ページ36

「Aさん、大丈夫、ですか。」

父がよく家に連れて来ていた人が喪服を来た僕に話しかけていた。

家族の死を告げられてからというもの、呆然と何もできない僕に代わり、

父に専属でついていたトレーナー兼マネージャのその人が全てを済ませてくれた。

何も知らない、何もわからない僕の代わりに。


全てが終わってから、徐々に家族の死というものが重くのしかかってくる気がした。

一人だけの家が信じられなくて、

一人残された僕は何もできなくて。

あれだけ大好きだったテニスどころか、

外に出ることさえせずに。

どうしたらいいのか、何をしたらいいのか、

全く分からなくて、

まるで何かがぽかりと空いてしまったみたいで。

食事さえろくに取らずに、

ただ呆然と部屋の片隅に座って。


『僕が、調子のって、１ゲームも落としたから、罰があたったんだ。』


そんなことを考えた。


『僕が、完全勝利したら、車の中で落ち込むこともなくて、父さんは運転に集中できたのに。』

そんなことばかり考えた。


交通事故の原因は相手の車で、とっさのことで避けられるわけがないとか、

そんな警察から聞いた言葉なんて覚えてもいなくて。




食事も取らなかったからか

動かなくなっていく身体に

苦しくなっていく息を感じながら、


このまま死んだら

暖かい家が待ってるのかな

とか、そんなことを考えた。








その時、


家の中なのにびゅぅっと強い風が吹いて、その風がどこからか音を運んできた。

『A、お前は幸せになれ。』

その声には聞き覚えがあった。

A「父さん?!」

だけど声をした方を見ても居るわけがなくて。

それと同時にぱぁっと大きな光に包まれて、僕は意識を無くした。








・

274話*　かぞくのこと。６*→←272話*　かぞくのこと。４*

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す