＊トリップをした少女＊【テニプリ】part6

268話*今までのこと。* ページ31

菊丸「この家久しぶりー！」

家に戻れば菊丸はそんな事を口にした。

車椅子だと一人で階段も登ることができず、結局僕の家に菊丸が泊まり込む事になる。

A「……埃だらけ。」

僕は菊丸を放置して棚の上や机の上をそっと指で謎ってはため息をついた。

別に元々物も少ないし特に思い入れのある家ではないのだがそれとこれとは別だ。

ここで寝泊りをするのかと考えると恐ろしくなってしまう。


菊丸「窓開けてさ、がーって床とか拭こうよ。寝る部屋だけでもさ。」

菊丸も同じことを考えていたのかそんな言葉を口にした。

さすがに半年も家を空けているとあちらこちらが傷んでいるのが見えてしまう。


雑巾の場所を教えて菊丸が床を、僕が棚を拭くとそれなりに……

まぁ一日寝れるぐらいには部屋が綺麗になった。




A「おやすみ。」

菊丸「おやすみー。」

ふすまを一つ隔てた部屋で僕たちはそれぞれ横になった。

流石に同じ部屋に寝るわけにもいかないが夜中に何かあったらいけないから、という菊丸の配慮でもある。


そんな言葉を交わした後、電気を消しておとなしく目を瞑る。

静寂が安心と疲れと寂しさをゆったりと漂わせて僕のもとへと届ける。

菊丸の寝ている部屋から寝返りをうつような布の擦れる音が小さく聞こえた。


病院には無かった静寂と暗闇と薄い布団が少しだけ心地よい。


菊丸「……寝たー？」

菊丸の呟くような小さな声が耳を掠めた。


A「全然。」

僕がふすま越しに返事をするとクスッと笑い声がふすまの向こうから聞こえる。

菊丸「明日ってさ、午後から青学だっけ。」

A「うん。午前からちょっと付き合って欲しい場所があって。」

菊丸「分かった。」

きっと菊丸は優しいから。

言わなければ付き合って欲しい場所なんて聞かないのだろう。

だけど。

A「菊丸、眠たい？」

菊丸「んーん。あんまり。」

小さく聞こえる答えと時計のチクタクという音が静寂の中に木霊する。

A「……ちょっと、聞いて欲しい事がある。」

一瞬の静寂の後、小さく唾を飲んだような音がした。

菊丸「うん。」

言わなければ、ずっとそう思っていた。

目覚めたあの時から、


聞いて欲しくて。

堪らなかった事がある。




A「長くなるんだけど。」

菊丸「いーよ。」

A「あのね……。」



僕は小さく話し始めた。

語りかけるように、

そして思い出すように。


僕の記憶を、丁寧に一つ一つなぞってゆくように。







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