257話*目が覚めて* ページ20
何も見えない、何も感じない。
そんな世界でまるで手を差し伸べられたかのようにスッと自分の意識が浮上していくのがわかった。
パァッと明るく輝いてゆく世界に僕は思わず目を瞑る。
急に明るくなった世界に恐る恐る目を開ける。
「A?!」
驚いたような声と、
視界にドアップに菊丸の顔が映し出された。
白い世界、ツンと鼻につく薬品の匂いに気の効かされた空調。
A「びょ、い……?」
病院か?なんて言葉を発しようと思えども口の中がカラカラで言葉が上手く繋がらない。
菊丸「Aっ……!よかった、目覚まさなかったら俺、どうしようって……あ、まって、すぐに先生呼ぶから……!」
菊丸の落ち着きのない慌ただしい声が少しだけ心地よい。
身体に上手く力も入らなくて、首だけを動かしてあたりを見渡す。
自分の腕に繋がれているらしき点滴が目に入った。
ぼうっとそれを眺めているとバタバタと騒がしく病室に人が入ってきた。
「大丈夫ですか……自分の名前が分かりますか?」
慌ただしく、騒がしく。
どうでもいい問答が始まる。
何かを忘れている気がして、僕は少しだけため息をつく。
「自分の周り……友達や家族の事は覚えてますか?」
家族。
その言葉にドクンと胸がなった。
あぁ、そうだ。
さっき会ったんだ。
夢の中で、“家族”に。
あれ、どうなんだっけ。
“向こうの世界”の“父親”は“家族”なんだっけ。
“夢の中”の“家族”は“この世界”のどこに居るんだっけ。
“夢の中”の“家族”と、
“どこ”で“会った”んだっけ…………?
ズンッと身体中が鉛のように重くなった気がした。
電流が身体中に流れて全身がマヒしているような感覚に陥った。
A「あ……」
乾いてろくに音もでない口が無意識のうちに開かれる。
A「ああぁあああぁああぁあああぁあああぁぁああぁぁぁあぁああぁぁぁぁ!!!!!!!」
驚いたように医者と菊丸が僕の顔を覗き込む。
そうだ、“家族”だ。
家族なんだ、
どうして、忘れていたのか。
家族なんだ。
大切な、僕の、一番大切な、家族なんだ。
僕の瞳から涙が溢れた。
なぁ、父さん、母さん、お兄ちゃん。
思い出したくなかったよ。
こんな“現実”、
僕にはいらない――――……!
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玲 - まるでその場に自分がいるかのようにのめり込むことができました!とてもいい作品をありがとうございます!長文失礼しました。 (2018年8月13日 19時) (レス) id: 898fb0a605 (このIDを非表示/違反報告)
玲 - もう…すごいとしかいえません。これほどの出来の長編を完結させるとは…!描写もすごくわかりやすいし、とてもよく考えて書かれたものなんだなってわかりました。読みながら主人公に共感したり、いろんなキャラに、いい奴だな、とか、かわいいなって思ったり… (2018年8月13日 19時) (レス) id: 898fb0a605 (このIDを非表示/違反報告)
月夜見(プロフ) - 出雲流夏さん» コメント有難うございます。更新が遅くなり申し訳ございません。話の展開の予想外さ、文章や言葉はその時々の流れや雰囲気により使い分けを意識しているのでそう言って頂けてとても嬉しいです。またお時間のあるときにでも読んで頂ければ幸いです。 (2017年5月9日 23時) (レス) id: 147be326d2 (このIDを非表示/違反報告)
出雲流夏(プロフ) - 更新されていて、すごく見れることが嬉しかったです。月夜見さんの文章や言葉はキレイだと思います。私のような素人でもスッキリと頭の中に入ってきて、話の展開がよめなくて、キャラそれぞれが際立っていて、凄いと見ていて思いました。更新楽しみにしてます。 (2017年5月8日 16時) (レス) id: 3483900707 (このIDを非表示/違反報告)
月夜見(プロフ) - るりなさん» 待っていて下さった事にまず嬉しくてニヤケが止まりません……!!これから更新はできるだけ週2、3ぐらいで続けたいと思います笑 ありがとうございます!ただいまです! (2016年12月6日 1時) (レス) id: 147be326d2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月夜見 | 作成日時:2015年5月10日 15時