＊トリップをした少女＊【テニプリ】part6

255話*大好きな* ページ18

どんどんと、頭の中に記憶が溢れる。


それは僕の知らない、とても……


とても、幸せな記憶。


“司書さん”と泥だらけになってテニスをする少女。

女性の横で安心したような表情で眠る少女。

男性に頭を撫でられ誇らしげな表情をする少女。


いや、少女じゃない、これは。



A「“僕”の、記憶……？」


覚えのない、僕の記憶。

何故だかそれは断言できた。




そうだ、これは、僕の記憶。


目の前の“司書さん”は……



A「……おにい、ちゃん……？」




漏れ出されたその声に呼応するかのように

司書は嬉しそうに、Aに笑いかけた。



兄「おかえり、A。」



ドクンドクンと、胸が大きく高鳴る。


頭が壊れるほどに膨大な記憶が留めなく流れ込んでくる。




A「お、父さん……お母、さん……！」


出し方も知らなかった涙が次々とAの頬を濡らす。




母「大変だったね、A」

父「よく、頑張った。」


二人の優しい言葉は身体に染み込む。



A「何で、私、だって、お兄ちゃんなんか、両親なんか、そんなの、」


涙と共に溢れた言葉。兄が背中を優しく摩って落ち着かせてくれる。


そう、だって、


だって僕の父親は……


今でも思い出す虐待の忌々しい記憶。

あれが、僕の父親。

でも……


この三人が、僕の“家族”だと、そう思うのは。



父「そうか……全ての記憶が戻ったわけじゃないんだな。」

母「大丈夫、じきに目が覚めればすぐに思い出すから。」


母が、優しく僕の頭を撫でた。


A「母さん、父さん……？」


目が覚めたら、その言葉に疑問を覚えて少し首を傾ける。


父「……どうしてここに居るのか、覚えていないか？」


そう言われ、意識を辿る。


そうだ、確かアイツらと一緒に合宿に行って……

丸井が、僕の敵だって思って……

それで……どう、したんだっけ。


そうだ、丸井に……！



A「どうしよう、僕……っ！」

兄「思い出した？」

優しい兄の言葉が自らを嫌悪させる。

A「丸井を、酷い目に……っ」

その時、自分が何を考えていたかなんて分かりもしない。

あの時、自分がおかしかったって、それだけは分かる。

負けてはいけない、それだけが頭の中を支配していて……


父「……テニス、うまくなったな。」

聞いた事のあるその言葉が優しく聞こえた。








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