＊トリップをした少女＊【テニプリ】part6

254話*居場所* ページ17

「A。」

柔らかく、暖かく、包み込むような男の人の声が聞こえた。


聞いた事のある、優しい声。

必死で記憶を探しながらもその声に釣られるように重苦しい瞼をあけた。


A「……司書、さん……？」



瞼を開けたその世界は真っ暗闇で、声も響かない。

虚無というのはこういうことなのだろうかと納得してしまうぐらい寂しく、恐ろしい世界。

A「図書館の、司書さん……。」

その声には聞き覚えがあった。

それはかつて“向こう”の世界に居た頃、トリップの方法の書かれた本をくれた司書さん。

あの、優しくそれでいてどこか懐かしい声……。



「……うん、正解。」

その少し寂しそうな声と共にその真っ暗な世界に一筋の光が挿した。

黒と白だけの単調な世界。

声の主はどこにも見えない。



「おいで、早く……キミに、会いたい。」


はち切れそうなその声に釣られるように、足が自然と走り出した。

この先に何があるか、だとかここはどこだ、とか……

そんな事、今はどうでも良かった。


ただ光の道を何かを探すように、追い求めるように、必死で足を動かした。



やがて光はどんどんと強くなり、足を動かすほどに黒が押されるように消えてゆく。


ふと前に人影が現れた。


A「司書、さん……？」

少し立ち止まると人影はあっと言う間に三人に増えた。


「おいで、A。」

女性の声が聞こえた。


ドクン。


鼓動が大きくなった。



知りようもない、聞いた事もない声。

でも、この声は、知っている。無意識にそう思った。



いつのまにか三つの人影は移動して僕のすぐ前へと、姿を現した。


「久しぶり、A。」

司書さんの、嬉しそうに透き通った声。

「会いたかった……。」

背の高い女性の、儚く壊れてしまいそうな声。

「頑張ったな。」

男性の、太く安心する優しい声。


司書さんが、僕の頭をポン、と撫でた。









……









『Aーほら、早く来いよ。』


『もう、Aってば……少しは女の子らしくしなさい。』


『おまえり、A。』


『Aー！』



『……ごめんね、A』


『ごめんね、A。』


『守れなくて、ごめんね。』


『Aには、幸せで居て欲しいんだ。』


『偽りだとしても、Aの笑顔を見ていたいんだ。』




『大好きだよ、A。』









頭の中に次々と言葉が溢れては消えてゆく。









私の目からは一筋


透明な涙が溢れた。









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