いつか死んだら君の腕に沈めて/tn ページ12
梅雨が煩い日だった。深夜、深酒で阿った上っ面の多幸感に包まれていた。大した酒の肴も無いから、ひどく酒を呷る羽目になって普段の二、三倍は余裕もって酔っ払っていた。そんな時だった気がする。インターホンのチープな音楽がなって、正直無視しようかとか迷いながらドアを開けた。
「⋯⋯ももせ、くん」
「何や、Aやんけ。久しいな。なしたん、こんなお日柄に」
「⋯⋯泊めて、くれへん？ 終電逃した⋯」
あからさまに終電を逃しただけでは無いような雰囲気のAを家にあげて風呂の準備をする。Aとは昔に付き合っていた、所謂元恋人関係の、そんな仲。ひどい放浪癖と手癖の悪さに俺は大変狂わされた。別れた当時は毎晩々々、泣きじゃくってアホみたいな度数の酒に八つ当たりをした。麻薬というか、なんか毒性のある女だった。
風呂上がりの赤らむ関節がちらちらと俺の服から垣間見えている。それから五パーセントのハイボールの酒缶を取ってきて、俺の隣にちまこくうずくまった。
「⋯⋯貰っていい？」
「いやもう貰う気しかないやん。ええけど」
「ありがとぉ⋯⋯ほんまに、とんちゃんに断られたら⋯」行く宛て無かってんな⋯優しいなぁ、やっぱ。あん時から変わらん」
「ハー、純情ぶるなや。お前の性根は見え透いてんねんで」
デコピンを喰らわすと、むっとした顔になるがそれでもプルタブの爽快な音と共に喉が嚥下反応で動くのを見ると懐かしい気持ちにさせられる。昔はこうしてお互いの家によく泊まったりなんかした。決まって週末、金曜日。酒とか晩飯とかを買ったり作ったりしてつまみながらバラエティのＭＣにちゃちゃを入れる。そういう時はいつも俺の左隣が定位置。それで、ハイボール。なんでそんな薄いハイボールなんて飲むん？ 不味ない？ って聞いた時にほにゃほにゃ笑って「まずいのが、ええやん。わかる？ わからんか」と交わされた。
「⋯⋯とんちゃん、あたしな、結婚するかもしらんくて」
「⋯⋯ハ？ おまっ⋯せやったらこんな所来んなや」
「⋯⋯いや。あたし、あんな男と人生添い遂げたくない」
「お前なぁ⋯⋯嫌とかちゃうやん、ほらさっさと帰りぃ」
「⋯⋯とんちゃんが、いい。あたし、人生の最後まで一緒なら⋯⋯とんちゃんがいいよ」
アルコールでうるむ瞳で見つめてくる。まるで捨てられた仔犬みたいな顔をして。目をふちどる黒色の長い睫毛が涕涙に濡れていくのを見ると、なんだか罪悪感が湧いてくる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 214人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かな(プロフ) - みかん畑さん» ありがとうございます！皆様本当に素晴らしい作品をお作りになりますよね！私も実は楽しみにしてます (2022年7月14日 7時) (
レス) id: 849b27ce88 (このIDを非表示/違反報告)
みかん畑 - コメント失礼します！作品が凄く好きで見るたびに私はニヤニヤしてます！ (2022年7月13日 23時) (レス) @page10 id: b9db204dbc (このIDを非表示/違反報告)
かな(プロフ) - 宮 村 。さん» ありがとうございます！！後の参加者様はもっともっと素晴らしい作品をお書きになるので是非最後まで見てくださると嬉しいです！ (2022年7月10日 10時) (レス) id: 849b27ce88 (このIDを非表示/違反報告)
宮 村 。(プロフ) - 初コメ失礼致します!! もう好きすぎてやばい作品です(( (2022年7月9日 23時) (レス) @page4 id: e0cd2bb1c0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
