検索窓
今日:35 hit、昨日:16 hit、合計:194,397 hit

ページ8

.


「ほーら、慧。いつもの甘いのだよ?」

光先生が湯呑みを傾けるのに、慧さんは嫌々をして拒んでる。

「弱ったねぇ?飲まないと下がらない」

どうしよう。
大さんもいるし、俺は辞していいのだろうか。

「大さん」

「ああ、ありがとよ雄也。仕事に戻っていいよ」

先回りして言われ、軽く頭を下げ戻ろうとしたら。

「慧っ、暴れないで」

光先生の慌て声に振り向けば、彼を押し退けようともがく慧さん。

「雄也がいいの?わかったから大人しくしておくれ。…雄也」

ぇ…。来いって?

「失礼します」

初めて踏み入れた慧さんの部屋。
裸足には妙に擽ったい、柔らかい敷物の上を数歩行けば伸ばされる、夜着から覗く細い腕を取った。

「慧さん…ほら、お薬飲みましょう?」

うるんでいた目からは、また新しい泪が零れ落ちる。
ああ、こんな顔で見上げられたら強くは言えないけれど。
受け取った湯呑みを、そっと口元に運んでみた。

「ね?楽になりますから…」

(ぅ、ゎ…)

上目遣いだった瞳を伏せて、細い指先が絡んでくる。
俺の手ごと湯呑みを持ち、ゆっくり口元に運ぶ様が…こんなにも艶めかしい。
熱に浮いた紅いくちびる…こくり、こくりと上下する細い喉を見ていられず。
くっ、と無意識に息を詰めていた。

ぷは、と息を吐く慧さんに、はたと我に返る。
俺としたことが、何たる不謹慎な。
相手は病人だというのに。

「よしよし、全部飲めたね。じゃあ横になろうな?」

光さんが、俺から慧さんを受け取ろうと手を伸ばした…のだけど。

「慧?」

「慧さん?」

彼はまた、俺の懐に潜り込んでしまう。

「おやおや、坊ちゃんは雄也じゃないと嫌なんだねぇ?」

大さんが笑って頭を撫でる。そんな呑気な…。
俺だって付いててやりたいのは山々だけど、いたたまれないのも事実で……。

「えー、慧さん?」

呼び掛けに、素直に顔を上げてくる様に目眩を覚える。己の立場を忘れるな雄也(おれ)

「俺はまだ、やることが残ってますから」

いちいち可愛いけど耐えろ。

「仕事を終わらせたら、お側にいる許可を頂きます。それまでここで待てますか?」

泪と熱で赤くなった目で、暫く俺を見つめ。
華奢な首が漸く縦に動いた。
よかった…頷いてくれて。

「約束しましたよ。…さぁ、横になりましょう」

今度は大人しく横たわる彼に、俺を含めその場にいた者がほっと胸を撫で下ろしたのは、言うまでもなかった。



.

九→←七



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (367 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
528人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

この作品にコメントを書くにはログインが必要です   ログイン

夏夢(プロフ) - mikaさん» mikaさまありがとうございます(*≧∀≦)読み返して頂いてるなんて嬉しすぎます!焦れったい展開で申し訳ないですが、もう少しお付き合いくださいませ♪ (2019年9月1日 20時) (レス) id: 6404b316b5 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - みるみるみるきーさん» ひかセンセーは周りのことなら敏いのですwそーよね、仕掛けるの見たかったっす!慧坊っちゃんも動くかなー?ヒャヒャヒャ♪ (2019年9月1日 20時) (レス) id: 6404b316b5 (このIDを非表示/違反報告)
mika(プロフ) - このお話が好きすぎて何度も読み返しています…!慧さんと雄也さんの関係もさらに動きそうな予感…!?続きを楽しみにしてます♪ (2019年9月1日 19時) (レス) id: 8f2d116da6 (このIDを非表示/違反報告)
みるみるみるきー(プロフ) - いやぁぁんん。光先生ッタラァー。察しが良すぎるー。そして、、なんですと?仕掛けたかったですと??なぁんてこと!!見たかったぞwwwそして、かわいいヤキモチもいい!さすがコウタさんの選んだ人〜〜。さて?色々バレちゃったシー。味方が増えた! (2019年8月28日 15時) (レス) id: a47283bf22 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - みるみるみるきーさん» 私もびっくりだよゆやさん(笑)一体誰に教わったんだー!そんなテクで落とした坊っちゃん大変にならないといーけど♪うひゃひゃ (2019年8月2日 20時) (レス) id: 6404b316b5 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:夏夢 | 作成日時:2016年10月17日 11時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。