花の聲

十二 ページ12

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薮屋は、幾つか薬草専用の畑を持っているそうだ。
難しいことはわからないけれど、気候や水、気温など、その土地でしか育たない薬草もあるのだとか。
宏太さんは、季節毎に自ら日本中を巡りそれらを仕入れる。
その時留守番を余儀無くされる慧さんは、必ずと言っていいほど具合を悪くする…。

「まぁ、ようは知恵熱のようなものでね」

「はぁ…」

身体が弱く、右足を少し引き摺ること。
何でも判ってくれる兄様(こうたさん)がいないと不安で堪らないことは、見てゆけば判ったし、光先生の説明でより明確になった。
そうなった原因が勿論あっても、知ったところで何が出来るわけでもない。
このお店(たな)の居心地は確かに破格の良さだけれど、明日それが翻っても不思議じゃないんだ。

深追いはしない。

長年の奉公生活で、一番最初に学んだ事だ。


「定治さんも褒めていたよ。雄也は余計な詮索をしない、決してでしゃばった事をしないとね」
「それは…」

そんな風に見られてんのか…。
俺の最優先は、雨露凌ぐ場所の確保と、給金を踏み倒されず貰えるか否かなだけだ。それを美徳扱いされても困る。

「いいじゃないか」

かちゃり、と茶托に湯呑みを置いて、光さんが笑う。

「人は先ず、見えることを判断材料にする。知るほどに違う面が見えるのは当たり前。それらが思惑から外れると、排除しようとするか取り込むか、或いは己の理想を押し付けるかの算段をするものさ」
「…………そうですね」
「時には駆引きも必要だけれど、他所の思惑なんざ関係ない。しっかり立ってりゃ、その生き方に共感する者だって現れる」
「…はい」

すとん、と何かが降りてきた気がした。
上手く言えないし驕る気もないけど、俺にしてみれば自分を守るのに精一杯だったことが、相手の鼻についたのかもしれない。つまり理想から外れたってわけだ。
だから排除(クビ)ってのも極端で
理不尽な話だが、お陰でここに拾われたことを思えば、悪いことばかりじゃない…と。

「何か腑に落ちたかい？」
「え？」
「すっきりした顔になった」

怖ぇ。お医者というのは、そんなことまで見抜くのか？

「さて、話が逸れたね。ここらで本題に行こうか」

宏太さん…こういうお人をお嫁に貰うんだ…。



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