五十六 ページ9
裕翔.
しゅんしゅんと音を立てる鉄瓶の湯を、慎重に急須へ注ぎ入れる。
砂時計の砂が落ちきるまで蒸らすその間に、茶菓子を皿に盛った。
「若先生、慧さん。お茶が入りましたよ」
さらりと開けた障子の向こうは、光先生のお部屋だ。
お嫁入りはしたのだけれど、書物がなかなか幅を取るので全てを持っては行けず、ここはそのまま使用するのだとか。
「ありがとう裕翔。慧、少し喉を湿そうか」
こく、と頷き、椅子に腰掛ける彼の前に茶托を置いた。
「岡本先生から分けて頂いた茶葉です。ほんのりした甘味が喉に良いとか」
「いつも有り難いねぇ。おや揚げ餅だ」
ひょい、と一つ口に放り込む。
「さては、正月の餅が余ってるね?」
「ご明察です」
光先生のおどけに答えると、慧さんがくすくすと笑う。
「美味しいですか?それは良かった」
若先生が彼を連れてきた理由を聞いてから、俺も出来うる限りの協力をしようと決めている。
「岡本先生はお元気だった?」
「ええ。相変わらず紳士な方で憧れますね」
漢方医でありながら西洋医学にも精通している彼の人は、うちの親父様と懇意にしている。
「裕翔は外科医にならないの?」
「もう…何度も言わせないで下さいよ。俺は血が苦手なんですって」
そう、俺の親父様は外科医。切った貼ったが苦手な息子を、
全く…いくら八乙女の大先生と旧友だからって無茶をする。
そして洋装がお似合いの岡本先生は、親父様と大先生の後輩に当たるので、外国から戻ると必ず呼び出されて飲んでるらしい。
「まぁ、内科医とて全く血を見ないではないけれどね」
ポリポリと揚げ餅を齧りながら、若先生が眼鏡の奥の瞳を細めた。
「それはそうですけども…本音を言えばなるべく避けたいですよ」
「ふはは」
そんな我々の話をにこにこと聞いてる慧さんだが、ふむ…。
何やら綺麗になったような…。
元から透き通るような美貌をお持ちだけれど、以前のような儚さは成りを潜め、生命力のような物が溢れて…。
「さて、慧?もう少しやってみようか」
彼がこくりと首肯き、休憩の終わりとなる。
『ごちそうさま、裕翔』
「どういたしまして。無理をなさらないようにね」
『ありがとう』
立ち上がった二人の邪魔にならぬよう、空の器を盆に乗せる。
努力がいつか、実りますよう。
岡本先生といえば、近頃会えてないが圭人は元気かな。
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夏夢(プロフ) - ましろさん» はぃい(^^;元気な爺様ですわwさーて坊っちゃんが先か、紫さんが先か。次章で何とかなればいいんですけども(^^;移行先でもまた遊んでくださいね〜(*^^*) (2021年6月13日 20時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - たくさん更新〜♪ ご・隠・居・さ・まったらぁ(≧∀≦) どんだけ浮かれてるんですか(もっとやってよくってよ) 坊っちゃんそろそろ限界ですかね? 使用人お三方、良い味出してる〜!続き楽しみです(^-^) (2021年6月13日 12時) (レス) id: 8371985186 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - みるみるみるきーさん» スキップ、って素直に書けたら楽なんですけどねぇ(日本語縛りの壁w)ひか先生も通ってきた道なんで、慧ちゃんの気持ちがよくわかるのかもw次章もぜひ遊びに来てくださいね〜(*^^*) (2021年6月13日 8時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
みるみるみるきー(プロフ) - きたきたきたー!更新ーー!!やはり、そうだったのか!ひか先生さすがだわー。御隠居は絶対スキップしながら言いふらしてんだろーなー。女三人の会話も…いやぁ、色々気になるわー。移行先、どんなことになってるかなぁ。楽しみすぎる! (2021年6月12日 19時) (レス) id: a47283bf22 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - みるみるみるきーさん» 大ちゃん益々隠密めいてきたですwwwそんでねみるさま、そこはほら、これからに繋がるのよぉおお( 〃▽〃)気合い入れて頑張るぞっ( ≧∀≦) (2021年5月24日 19時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏夢 | 作成日時:2019年8月29日 8時