花の聲 ニ

八十六 ページ39

光.


…と言ってけしかけたものの。

(慧も読めない行動するからなぁ…)

その位の方が恐らく、雄也にはいいだろうと思うけれど。

(俺に言わせりゃ、既に好き合い同士のじゃれあいだよ)

必要なのは思いきり。主に雄也ね。
それにしても風呂の下り…。

「っく…ふはっ…」

思い出すだけで笑いが止まらないじゃないか。

「楽しそうだねぇ光？」
「ぇ、あ。上がったの？」

いつの間にやら風呂から戻った宏太が、敷きかけの布団を眺めてる。

「何か楽しい事でもあった？」
「べーつにぃ」

ちゃっちゃと布団敷きの続きを終わらせ、寝間着の背に半纏を掛けてやった。

「宏太こそ、せっかく温まったのに冷めちまうだろ」
「そしたらお前が温めておくれ」
「調子乗んな」

ぺん、と叩けば大袈裟に痛がるから、俺も着替えを持って立ち上がる。

「風呂貰ってくるから、先に布団入っといて」
「待ってていいの？」

ニヤニヤ顔をまた叩いて、少々乱暴に襖を閉めた。全くあの宏太(ていしゅ)ときたら！

……あんな時は男前度が増すから…困っちまうよ。

ぁあやだやだ！これからだって長いのに、どんだけ惚れてけば気が済むんだ。

誰が見てるわけでもないのに気恥ずかしくて、ザブザブと湯を浴びた。



(ぃ、些か浸かり過ぎたかも)

若干ののぼせを台所で調達した水で冷ましながら、部屋に戻った。

「随分ゆっくりだったねぇ」

(うっ…)

布団に伏せて、煙管を一服している宏太は、粋な遊び人にも見える。
コン、と軽く煙管を打ち付け片付けると、俺の持ってる盆を見てふにゃりと笑った。

「寝酒かい？」

ああくそぉ…また惚れ直す。

「光？」
「っ、ああ。燗じゃないけどいいかい？」
「全然。んじゃ今日もお疲れさん」

猪口に注ぎ、ちょんと合わせる。

「沁みるねぇ…」
「おっさんかね」
「一日の終わり、明日は公休日。愛しい女房としっぽりだよ？沁みるさ」
「はいはい」
「つれないねぇ」
「何とでも」

引き寄せられ、しなだれかかった。
手を出される前に、「ねぇ宏太？」と話を振ってみる。

「お前さまは実のところ、慧と雄也のことどう思ってる？」
「唐突になんだい？」

差し出された猪口に、徳利から酒を移した。嚥下する喉元を間近に見ながら、かいつまみ話してみた。

「慧はどうやら本気だし、雄也は言わずもがな…とっくに知ってたろ？」


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