六十九 ページ22
慧.
ふるりと身体が震え、意識を戻す。
もぞもぞと身を捩りやり過ごそうとするが、無駄な抵抗のようだ。
仕方なく起き上がり、寝間着の上に雄也が用意しておいてくれた半纏を着込む。
忘れないよう足袋も履き、目指す厠へ冷たい廊下を歩き出した。
今夜はお茶を飲みすぎてしまっただろうか。声が出なくとも、祝い事特有の高揚感からよく笑って、喉が渇くまま飲んでいたから。
『…?』
用を足して一息つき、顔を上げた向こう。
曇り硝子の嵌まる小窓越しに、揺らめく炎のような物を見たような…。
からりと窓を開けてみれば、狭い枠から見える外は真っ暗だ。
『あれぇ…?』
音なき声を発し、首を傾げる。気のせいか?
手を洗い、一旦戻りかけやはり気になった。
何故なら、見えたそこは蔵の位置。
万が一炎だとしたらそれは火事だ。踵を返し、厠を通り過ぎ右側へ回り込んだ途端の光景に、息を飲む。
閉められている筈の雨戸が、薄く開いているではないか。
目をこらせば、揺らめく炎らしきものはちらりちらり移動している。
『誰かが蔵の中で…?こんなに遅く…?』
考えるより先に動いていた。
庭用の草履を引っ掛け、そろそろと近付く。引き摺ってしまう右足も、慎重に動かした。
「おい、まだなのかよぅ」
「待て待て慌てるな、上手く細工しとかにゃならん」
「誰か来たら不味いよ、早いとこ戻ろうぜ」
「なぁに、皆たらふく飲んでたんだ、起きてきやしねぇさ」
張り付いて中を伺う。潜めるでなく堂々と喋っているこの声は。
間違う筈がない、作造と芳助だ。
「全く薮屋様々だよ、未だに気が付かないんだからな」
「で、でもさ、売り捌いたのはやり過ぎだったんじゃねぇか?」
「ちまちま働くよりよっぽど儲かっただろうが。ほれ、こうして上手くかさ増ししときゃばれねぇさ」
「そうだな…あんな大金初めて見たよなっ」
大金?売り捌く?ここは薬草の保管庫だ。ということは…。
慧はそろそろと後ずさる。
知らせなければ。
兄に。
雄也に。
しかし、焦りは注意力を欠落させる。
『あっ!』
物音に、二人はビクリと手を止めた。頷いた芳助が、素早く外へ躍り出る。
「慧坊っちゃんっ?」
潜められた声はそれでも驚きに満ち、芳助はすぐ中へ取って返す。
「作造っ、慧坊っちゃんが」
「何だと?……これはこれはお坊ちゃん」
倒れ込んだ慧を認め、作造の顔が夜目に判る程歪んだ。
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夏夢(プロフ) - ましろさん» はぃい(^^;元気な爺様ですわwさーて坊っちゃんが先か、紫さんが先か。次章で何とかなればいいんですけども(^^;移行先でもまた遊んでくださいね〜(*^^*) (2021年6月13日 20時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - たくさん更新〜♪ ご・隠・居・さ・まったらぁ(≧∀≦) どんだけ浮かれてるんですか(もっとやってよくってよ) 坊っちゃんそろそろ限界ですかね? 使用人お三方、良い味出してる〜!続き楽しみです(^-^) (2021年6月13日 12時) (レス) id: 8371985186 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - みるみるみるきーさん» スキップ、って素直に書けたら楽なんですけどねぇ(日本語縛りの壁w)ひか先生も通ってきた道なんで、慧ちゃんの気持ちがよくわかるのかもw次章もぜひ遊びに来てくださいね〜(*^^*) (2021年6月13日 8時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
みるみるみるきー(プロフ) - きたきたきたー!更新ーー!!やはり、そうだったのか!ひか先生さすがだわー。御隠居は絶対スキップしながら言いふらしてんだろーなー。女三人の会話も…いやぁ、色々気になるわー。移行先、どんなことになってるかなぁ。楽しみすぎる! (2021年6月12日 19時) (レス) id: a47283bf22 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - みるみるみるきーさん» 大ちゃん益々隠密めいてきたですwwwそんでねみるさま、そこはほら、これからに繋がるのよぉおお( 〃▽〃)気合い入れて頑張るぞっ( ≧∀≦) (2021年5月24日 19時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏夢 | 作成日時:2019年8月29日 8時