花の聲ー日々綴りーその２

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雄也.

ガクン、と揺れて目が覚める。慌てて見回すと…(そうか、汽車に乗ってるんだった)

「起きた？もうすぐらしいよ」
「はい。…慧さん？」

もぞもぞしていた慧さんも起き上がり、大きな欠伸をしてる。

『着いた？』
「もう少しらしいですよ。どうぞ」
持参した水を渡せば美味しそうに飲んでくれる。緊張はしてない、かな。




汽車はやがて速度を落とし、よく聞き取れない駅の名前が、通り過ぎ様の車掌から告げられる。


駅舎の外に出れば、季節が逆戻りしたかのような冷たい空気が出迎えてくれた。

『さむーいっ！』
「慧さんこれ着て」

持っていて良かった。厚手の上着を着せつければ、宏太さんらも一様に震えてる。

「さっみぃ！なぁ本当に花見出来んのか？」

ひゅううう。

辺りを見渡し、ぽろっと零れた宏太さんの一言に、応えるかのような風が吹き抜けた。



・・・・







「いゃあすまんねぇ〜」

旅館の一室に落ち着き、開口一番ご隠居さまが頭を掻く。



「山桜(・・)って言ってたからねぇ…」

何となくそんな気はしてたんだ、と光先生が苦笑している。




俺たちを出迎えたのは、桜の代わりに残る雪だった……。

北上したのだから当たり前と言えばそうなのだけれど。
この辺は雪が降りやすく、桜の開花も俺たちの住む辺りとは半月から一月(ひとつき)違うのだそうだ。

「よろしいじゃないですか。雪見もまた一興ですよ」

笑うと出来る優しげな皺を目元に浮かべ、旦那さまが場を取り成す。

「そうそう。帰ってから改めて、何処か花見に行こうよじいちゃん」

旦那さまそっくりのふにゃり顔で宏太さんも言い募れば、しょんぼり落ちてたご隠居さまの肩が上がり始めた。

「そうだねっ！じゃあ今日は雪見酒と洒落こもうか！」

光先生も慧さんも、顔を見合わせ笑って。
俺としては『家族』の中に入れて貰えるだけで充分嬉しいから、本音を言えば桜は二の次だったりもする。

『雄也、お風呂行こう！』
「行かれますか？では仕度を…」



風呂。

不味い！

顔を上げた先に宏太さん。思わず目で語り合ってしまった。

「はいはい、行こうねぇ慧。お二方はどうされます？」
「僕らはもう少し休んでから浴びるよー。」

そんな会話の間に、しゃきしゃき仕度をした光先生が、慧さんを促す。

「ぇ！おいひかるっ？」
「宏太たちは後からゆっくりおいでね」


笑ってない目で釘を刺されて、宏太さんともう一度顔を見合わせた。


さ、逆らえない…。

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