Dekigokoro・別館５

月が隠れる(ybin) ページ2

※がっつり付き合ってます。


yb.

キスから始めた恋人時間を、マナーモードにし忘れた伊野尾のスマホが邪魔をした。

こういう時、スルーか否かの、変な勘が働く事があって。
今回後者だったのか、投げ出してあったそれを取った彼の目を受け『どうぞ？』と同意。

「もしもし…うん、どうしたの」

歩きながら寝室へ向かう後ろ姿。恋人歴もそこそこ長いけど、そっか。聞くのNGなのね。

戻ってきたら襲ってやろうとすら考えてたのに。





「辞めるんだって」


ゆうに数十分が経ってから戻って来た伊野尾の目は、気のせいじゃなく赤かった。


飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中の後輩から、突然の電話。ドラマで共演して以来、あまり後輩と繋がりを持たないこいつが珍しく可愛がってた。


内部ではそれなりに、話も流れてくる。
だからぶっちゃけ初耳ではないけれど。

「本当だったか…」

「うん…馬鹿だよあの子。こんな時におれの心配してんの」

握ったままのスマホを取り上げ引き寄せた。大人しく収まる顔が、俺の胸に押し付けられる。

「ドラマのこと、本当に申し訳ありません…て。そんなことよりっ…」


彼と伊野尾(こいつ)で人気を博したドラマの続編話は俺も聞いてた。
まだまだ水面下の段階だが恐らく決まりだと、こいつ嬉しそうだったんだよ。


「そうだな…」

数日前にもう一つ、大きな事を聞いたばかりの俺たち。

行く先々で無遠慮な好奇心が付いて回る。


何も判らないくせに。

何も知らないくせに。

肝心な所(しんじつ)がどうした。

そんなもの、俺たちだって聞きたい。



「いのお」

呼び掛けに答えられない震える身体を、よいしょ、と深く抱え直す。


「……かみ」

「ん、ああ」

そうしていたのは、時間にすれば僅かなものだった。

身体を離して無造作に置きっぱなしの、何なら少し潰れてるティッシュボックスごと渡すと、盛大に鼻をかむ。

「水がいいか」

「ん」

鼻声を受け、冷蔵庫まで数歩を往復し渡してやると、俯いたまま受け取ったと同時に溜め息が漏れた。

「深いな」

「深くもなるわ…」


正直言えば俺もショックはあるけど。
……まぁ、仕方ない。感情移入はこいつのが遥かに上だ。

「やる気なくした…？」

「それ聞くの？」


お前な、慰め役に徹しようとしてる俺の立場をだな？

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