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第九話…思惑 ページ7

◇..


「ただいま。」


家に着く頃にはすっかり日が沈んでしまった。玄関に入ると、リビングの扉からAが顔を出す。紫の目を細めて俺に笑いかける。
匂いが変わっていた。煙草の臭いがしなくなった代わりに、それを隠すかのように花の香りが鼻先を掠める。香水だろうか。


「おかえりなさい…どうしたの?息が上がってる、走って帰ってきたの?」


その問いかけを無視して、彼女の足の先から頭のてっぺんまでをじっくりと見回して、首元で目を止める。


「A…ネックレスはどうした。」

「え?ああ、あの月のネックレスね…端の方が欠けちゃったから接着して私の部屋に置いてあるわ。」


月のネックレスが、欠けた。


。。。


「この月の石、どんな衝撃を与えようと絶対に割れることはありません。どうです?気に入ってくれましたか?」


。。。



見た目は紛れもない彼女そのものである。陶器のような白い肌、黒薔薇のような艶やかな髪。紅い唇。なんなら、心地のいい声のトーンや、話し方まで。

だが、違う。今目の前で俺と話している人物は、Aでは無い。

少しの違和感は強烈な違和感へと姿を変えて、俺の心をざわつかせる。


「お前は、誰だ。」


率直に言うと、目の前の人物は不意に笑いだした。俺は手に滲む汗を握りしめ、息を整える。


「いきなりどうしたのよ。様子がおかしいわ。」

「様子がおかしいのはお前の方だ。朝の見送りはしない、今朝は煙草の臭いがしたと思えば、それを上塗りするように今は花の匂い。
何より………あの月のネックレスは割れない。あの胡散臭い魔女お墨付きの品だからな。」

「…割れない?」

「チーノという奴だ。彼女は知っていたみたいだが、"お前"は、知っているか?」


つらつらと事実を突きつければ、今度は諦観を含んだ笑いを見せた。腹を抱えて笑う様に、Aの面影はひとつもない。

鋭い目付きが、俺を捕らえる。


「ふっ…ははははは…!あー…こりゃあゾムさんにどつき回されますわ。まさか一日も隠せないなんて…"虚偽の魔女"名乗れるのはやっぱ本家のチーノさんだけやな………」


Aの姿のまま、まるで誰かが乗り移ったように話し出すそいつは、次の瞬間に破裂音と共に煙を身にまとい、姿を消した。
煙草の臭いが空間を埋め尽くす。

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ルルリパ - 返信ありがとうございました、誤字じゃなくてよかったです。(o´∀`)b (2020年6月9日 21時) (レス) id: 422dd95f78 (このIDを非表示/違反報告)
なーや(プロフ) - ルルリパさん» すくなく、であってます!私も詳しくは分からなかったので調べてみたら『少なく』でも『少く』でも大丈夫らしいです!細かいところまでご指摘して頂きありがとうございます! (2020年6月6日 22時) (レス) id: 8296248943 (このIDを非表示/違反報告)
ルルリパ - あの、第十二話の三の『少く』って、『すくなく』ですか?知識不足ですいません、キーボードで入れたら、『少く』も出てきたので、誤字かわからなくて………… (2020年6月6日 22時) (レス) id: 422dd95f78 (このIDを非表示/違反報告)
ルルリパ - 私みたいなそこら辺の一般人の声が届いて良かったです!これからも頑張ってください! (2020年5月31日 22時) (レス) id: 422dd95f78 (このIDを非表示/違反報告)
なーや(プロフ) - ルルリパさん» あー!ありがとうございますー!コメントとても励みになります!! (2020年5月29日 23時) (レス) id: 8296248943 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:なーや | 作者ホームページ:http  
作成日時:2020年3月24日 21時

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