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ぶわり、風に前髪を煽られて彼から顔を背ける。そう見えたのだからそのまま伝えればいいのだけれど、なにか踏み込んではいけない気がして。かく言う彼も、その返答は待たずに｢やっぱり風、すごいですね｣なんて今更なことを言っていた。
｢こんな予報じゃなかったんですけどね｣
｢…たしかに、天気予報でも聞かなかった気がします｣
彼が話題を変えたので、それ以上は追求せずにその話題に乗るが、たしかに言われてみればこんな予報は聞いていない。突発的なものなのだろうか。
するとエーミールさんがなにか思い出したようにあ、と声を上げる。
｢もしあのクジャクヤママユが何かしらの力を持っているのなら、それの影響かもしれませんね｣
｢と、言うと？｣
｢バタフライエフェクトですよ。ご存知ですか？｣
バタフライエフェクト。その言葉を聞いて、かの有名な文言を思い出したと同時に、彼がその言葉をなぞる。
「"ブラジルでの蝶の羽ばたきは、テキサスでトルネードを起こすのか"という、カオス理論においての予測困難性を表す言葉です」
｢えっと、カオス理論？だとかはよく分からないんですけど、その現象自体は知ってます。でもまさか…｣
｢こんな表現があるくらいですから、あながち有り得なくもないでしょう？本来地下室で永遠に眠るはずだった蝶が外へ逃げ出したことで、この街で強風を引き起こす、とか｣
確かに無くはない。ただ可能性はほぼ無に等しいだろう。と、思いかけてでも0%じゃないと思い直す。
｢まぁ…ブラジルとテキサスなんていう距離感でいうなら、この街で逃げ出した蝶がこの街で強風を引き起こすのも有り得るかもしれませんね｣
｢でしょう？彼の例えの話でしかないのは確かですけど、何も関係ないなんて証明できませんしね｣
｢だとしたら尚更捕まえないとですね。これから嵐にでもなったらもう捕まえられませんよ｣
｢ふふ、そうですね。よろしくお願いします｣
バタフライエフェクトを止めなくてはならない。
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