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家の前の道路に出て、私の頭上より数メートル上を飛ぶ蝶を追いかける。
何度か網を振ってみたものの、そいつは僅かに届かない位置を飛んでいて、しかしながら追いかけられないような逃げ方をする訳でもなく、まるで私を翻弄しているかのようだった。
そこでふと、疑問に思う。
蝶などの虫は雨風が強い日はそれらを凌げる場所で大人しくしているとエーミールさんに聞いた。そうでなければ迷蝶の可能性があると。
しかし、今私が追いかけている蛾はどうだろうか。
蝶よりはいくらか不規則な羽ばたき方をしているが、こんな嵐の中にしては明らかに不自然なほど、自然に飛べている。
そこでほとんど確信に変わる。これは間違いなくただの虫ではないと。
ならば、より一層こいつを逃せなくなった。ここでこのクジャクヤママユを捕まえて、エーミールさんに届けなければならない。
「はぁっ……くそ…！」
追いかけて、追いかけて。数分経っただろうか。
私の体力はもう既に底をつきそうだった。
裸足にサンダル。そして部屋着のまま飛び出してきた私の姿は見るに堪えないだろう。全身ずぶ濡れで息も絶え絶えの少女が、虫取り網と虫かごを手に蛾を追いかける様子なんて。ああ、誰にも会いませんように、そう思ったが、この天気なら誰に会うこともないだろう。
もう勘弁してくれ。
そう心の中で叫びながら、力いっぱい網を振った時。
クジャクヤママユが網に捕らえられた。
「や、やった…！捕まえた！」
急いで網から出ないように、出口を塞ぐようにして網を手でぎゅっと握る。
ああ、捕まえられた。と一安心して蛾を傷つけないように虫かごへと移し、蓋を閉めた。その瞬間。
ドドドドド…………と、地面の底から揺れるような地響きが鳴り、思わず足がもつれる。その音の先を見て、思わず目を見開いた。
私が立っていたのは、あの"いつもの場所"から少し離れた場所。この道は、私が自宅からその場所へと行く時に使ういつもの道であった。
私が見たその先。いつもの場所が＿＿＿坂本さんと西郷さんと会う時の集合場所である丘の、上の方から土砂が崩れていくのが見えた。
いつもの、私の、大切な場所が…＿＿＿
しかしそのけたたましい轟音を聞いて、私は本能的にその場所へ背を向けて自宅へと走り出していた。
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