24 ページ25
.
ダメだ、私。自分に危機が迫った時ほど、体が動かなくなってしまう。FBさんの事件の時もそうだった。数え切れないほどのオオカミに囲まれて、情けなく腰を抜かして地面に座り込んでしまって…結果的にあの時はFBさんに助けられたからよかったものの、今は違う。誰も助けに来てくれない。
「大きい声、出さないでね。そしたら黙らせなきゃいけなくなるから…………意味、分かるでしょ？」
「ま、…っ、まって、ください、私の血、あの…きっと、美味しくないですよ」
「あははっ、そんなの飲んでみなきゃわかんないよ。でも前に血の匂い嗅いだ時、美味しそうな匂いしてたし、きっと美味しいよ」
絶体絶命の窮地に立たされて最初に出てくる命乞いが、美味しくないですよ、なんて。ああ…あの某サファリパークに迷い込んだ少女の気持ちが今なら分かる。自分より強い相手に追い詰められて、いの一番に食べないでください！と叫びたくなる気持ちが。
左手でスマホを強く握り、震える右手で彼の肩を押しのけようとする。でも全く手に力が入っていないせいか、彼はピクリとも動かずに、すぐに余った左手で私のその手を掴んだ。
そして、その手の甲にそっと口付けをして、優しくあやすような声色で言う。
「吸血鬼になったら、血を飲まないと生きていけなくなるけど、そしたらこれからは、俺が生き方を教えてあげる。でも、昔より血は薄まってるから、普通に陽の光の下を歩けるし、十字架だってニンニクだって効かないから人間と大差ないよ」
彼の顔が近づいてきて、私の左肩に息がかかる。
そんなに強い力で押さえつけられている訳でもないのに、体はどうしても動かなかった。
「肩だと骨があって噛みにくいからちょっと首の方になるけど…この辺ならシャツで噛み跡隠せるよね」
掴まれた右手に、彼の指が絡められてそのまま握りこまれる。そして、私のシャツをめくっていた彼の右手は、いつの間にか背中に回されていて、私を安心させるためか、ぽんぽんと数回優しく背中を叩かれた。
「眷属を作る吸血って少し強めに噛まないとだから、ちょっと痛いかも。でも、安心して。死にはしないから。叫びそうになったら俺の服噛んでもいいよ」
イケメンに抱きしめられて、手を握られて。アオハル超えて一線越えそうな雰囲気の中、私は何も出来ずにただ、力いっぱいに目をぎゅっと瞑っていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 32人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なーや(プロフ) - reoru(テイル)さん» コメントありがとうございます！Kさん推しなんですね…！同士の方とこうして出会えて感激です〜！次回作もぜひお願いします(*^^*) (2021年10月19日 21時) (
レス) id: 8296248943 (このIDを非表示/違反報告)
なーや(プロフ) - 管理人さん» コメントありがとうございます！前作から見て下さってるんですね…！とても嬉しいです！次回作もよろしくお願いします(*^^*) (2021年10月19日 21時) (レス) id: 8296248943 (このIDを非表示/違反報告)
reoru(テイル)(プロフ) - 完結おめでとうございます！推しだったので、死にかけ(尊死)ながら読んでました。次回作も死なないように頑張りますので、体調に気をつけて頑張ってください！ (2021年10月19日 15時) (レス) @page33 id: 4d94c0fd69 (このIDを非表示/違反報告)
管理人(プロフ) - なーやさん完結おめでとうございます！Fさんのから見ていますが、今回のもすごく良かったです！次回作も楽しみにしてます！ (2021年10月19日 7時) (レス) @page33 id: af5b844ff4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
