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「さぁ、俺とお話しよか」
毛先の巻かれた茶髪のアシンメトリー。
ニッコリと温度のない表情で笑う女顔。
オスマンだ。
「あ、わ、あわわわ…」
語彙力の低下を発症した私に見向きもせず、彼は私の目の前でしゃがみこんで挨拶をする。てか、やばい、すごくいい匂いする、甘い匂い。
「こんにちは、侵入者さん」
「ゆ…夢ですか、これは」
彼の挨拶に返事もできず、私は目に浮かぶ涙をぐっと堪えた。こんな幸せな夢ってアリですか神様。これといって徳を積んだ覚えもないのですが、もしかして私、明日にでも死にますか。
「何言ってんのや」
あまりの幸せに脳みそデロデロで浸る中、次に放たれた彼の言動により、私は一気に現実に引き戻されることになる。
文字通り、"現実"に。
鉄格子の間から伸ばされた彼の指先が、私の右耳を摘む。ぐっと、力を込めて横に伸ばされて、思わず私は痛い痛いと体勢を崩しそうになった。
ん？痛い？
「夢やないで、現実や」
「……………ﾌｧｯ！？」
今どきオタクでも使わないような声を上げてしまった。いやでも、え？げんじつ？ごめんなさいグ○ってもいいですか？
受け入れ難い事実に全身の毛が逆だった。冷や汗も出てきて、私は鉄格子に捕まりながら彼に問う。
「ままま、待ってください、現実？こっこれが？」
「まぁ落ち着けや。とりあえず水でも飲んだらどうや？ほら」
そう言うと、彼は右手に持っていたコップを私に差し出した。透明な水一杯。変な匂いがする訳でもない。でも、私は、これがなんなのか、知っている。
これは、ゲームの一番最初の選択肢だ。
この水を飲むか、飲まないか。どちらにせよ死ぬことは無いが、これがキャラのルート分岐に影響を及ぼす。けど今はルート分岐どころじゃないし、もし本当にこれが現実なら、私は出来ればこの水は飲みたくない。
「いり、いりません」
「…なんで？喉乾いたやろ？」
「この水…自白剤入ってますよね？」
彼の目が開く。瞼の下から覗いたエメラルドの瞳が、鋭く私を捕えた。
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