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それから数分、私たちは会話もなく隣り合わせに座り桜を眺めながら時折飲み物を飲んでいた。公園の桜はほとんどソメイヨシノだから、寒桜と違いまだ蕾が多いが、それでも今日の日和でとても美しく見える。別に会話がなくとも、特に気まずさもなく、久しぶりに何も考えない楽な気持ちで居られた。
「まぁ、なんや。来年度からまた同じクラスなんやし…なんか俺に出来ることあったら言ってくれや」
もう二週間後には期末テストがあり、それを終えれば卒業式で春休みを挟み、私たちは二年生になる。そうは言っても特に何か変わる訳でもないけど。進路を考え出す人も多いだろうけど、私にはもう進路なんて考える意味はないのだから。
不意にベンチから立ち上がった彼はスマホで時間を確認して、そろそろ行かなあかんねん、と言った。きっと病院の診察時間が迫っているのだろう。
「あ、うん。ありがとう、コネシマくん」
「…なぁ、コネシマくんって、呼びづらくないんか？」
「え？そうかな」
「長いし…呼び捨てしたらええやん。俺も…Aって呼ぶから」
顔を背けてそういった彼の耳裏は少しだけ赤らんでいて、まるで付き合いたての恋人のようなやり取りだと思ってしまった。釣られて恥ずかしくなるのを誤魔化すようにじゃあ、と口にする。
「シッマって、呼んでもいい？コネシマくんの仲いい人たち、皆そう呼んでるしさ」
「…おん、ええんちゃう。好きに呼べや」
「うん、ありがとう。来年度もよろしくね、シッマ」
笑顔で手を振ると、彼は小さく会釈をして去っていった。その後ろ姿に入学式の彼を思い出して、やっぱり不思議な人だなとしみじみ思う。
そろそろ私も帰ろうかと、彼から貰ったレモンティーを手に少しだけ背筋を伸ばして公園を後にした。
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