17 ページ38
.
『間もなく、打ち上げ花火、開始となります』
『皆さま、カウントダウンの準備を、お願いします』
放送で知らされた花火の打ち上げ時刻。いつの間にか周りは人だかりが出来ていて、皆が花火を今か今かと待ちわびている様子であった。
そして、10から始まる、カウントダウン。
『9』
『8』
『7』
『6』
ドキドキと胸が高まる。放送の声に合わせて、私もカウントダウンを刻んだ。
「ご……よん……さん……に……いち＿＿＿＿」
一の合図とともに、打ち上げ花火が空に登る笛の音が響く。
そして、夜空に花が咲くように広がった赤い花火。
湧き上がる歓声。
赤い花を切り口に、次々と色とりどりの花火が打ち上げられていく。パラパラと火花を散らす音や、数秒の時間差でやってくる低い破裂音が鼓膜に響いて。
初めて見たわけじゃないのに、今まで見てきた景色の中で特に輝いて見えた。
「ねぇ、シッマ…＿＿＿＿っ！」
綺麗だね。
その言葉は口の先で押し止められてしまった。
彼の方を振り返ると、シッマが私の頭の後ろに手を添えて自分の方へと引き寄せる。一瞬見えた彼の空色の瞳は直ぐに閉じられて、近づいてきた彼の顔に、私もつられるように目を閉じた。
程なくして唇が優しく塞がれる。
そして、あまり長くない口付けは名残惜しさだけを置いて、私の頭に添えられていた彼の手が頬を撫でた。
「………………し、っま…」
「誰も見てへんよ。俺らなんて」
さっきまであんなに花火に魅了されていたと言うのに、今はその存在を忘れるほど、彼のことで頭がいっぱいだった。
きっと、誰も私たちなんて見てない。みんな揃いも揃って、空を見上げ、あの光の虜になっているだろうから。
「で、でも……び、っくり、した」
「なんか今、したくなった」
夏の暑さのせいなんかじゃない。
熱を持った自分の顔、鳴り止まない鼓動。それは全て彼にバレてしまっているだろう。
でも、そんな私と同じくらい、彼の顔も赤くなっていて。
恥ずかしさに紛れて、私は彼の手に自分の手を重ねて、こう言った。
「………今日は、おあいこだね」
「…せやな」
焦っても何も上手くいかない。
こうやって一歩一歩、着実に、彼との距離を縮めて行こう。
添えられた彼の手の温もりは、不思議と、暑さを忘れるような安心感があった。
【夏】-終-
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 81人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
