17 ページ18
.
公園の西側までやって来ると、例のソメイヨシノが見えてきた。その桜は土が盛り上がった山上にあり、私たちはそこに続く二十段程の階段を登っていく。
「わぁ……！すごい…！」
「デカいな！これは確かにすごいわ」
ちょうどよく誰もいないタイミングだったので、私たちはすごいすごいと声に出しながらその桜を見て回った。
すぐ近くの頭上で桜の枝が揺れる。それと同時に、薄いピンク色の木陰が揺らめいて目を細めた。
きっと、この桜を見るのも、最後なんだろうな。そんな悲しいことを思いながら。足元に視線を移すと、既に茶色く枯れた花びらがたまたま目に入って手を握りしめた。
それから目をそらすと、今度は花びらではなく形を保ちそのまま落ちた様子の綺麗な桜があった。
＿＿＿＿そいつと見た桜はその時だけのもんや。見てる瞬間にも散って枯れてくから、特別なんやろ。
古文の勉強をした時にシッマが言っていた言葉を思い出した。そっか。この桜を見るのは、みんな最後なんだ。来年はまた別の桜を咲かせるのだから。彼の論理になぞりながら、私はその桜を拾い上げた。あることを思いついたのだ。
「A、どしたん？」
「…ううん、なんでもないよ」
シッマが心配そうな声色で声をかけてきたけど、そんな自分の思いを言うことも無く誤魔化し、拾った桜をポケットに潰れないよう慎重に入れた。前向きにならなきゃ、そう自分に言い聞かせて上を向けば、頭上で揺れる桜の隙間から眩しい日の光が差し込むから、思わず目を背けたくなる。
10分か、15分か、もしかしたらそれ以上桜を見ていたのかも知れない。そろそろ行こうかと階段を降りていく。
その時。
急に強い風が吹いて目を瞑った矢先、階段を踏み外してずるりと体制が崩れた。
「あっ！」
「っA！！！」
ぐん、と、大きな手が私の右腕を引っ掴んだ。
その勢いのままに、腕を掴んだ手とは別のもう片方の腕が後ろからまわされて、強く引き寄せられる。
「は…………っぶな」
焦った彼の声が、いつもより近くで聞こえてきて。
えっと、今、私、なんて状況整理もさせてくれず、まわされた腕に更に力が込められて、私の背中に彼の胸板がぴったりとくっついたのが感触で分かってしまい、急激にドクドクと心臓が破裂しそうなくらい動き始めた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 81人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
