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冬こもり 春咲く花を 手折り持ち 干たびの限り 恋ひわたるかも
「これは柿本人麻呂っていう百人一首でも有名な人の詩で"春に咲いた花を手に、何度でも貴方を思い続けます"っていう思いが込められてるの」
「…ふゆこもり、はるさくはなを、ておりもち…」
「たおり、ね。その後は？」
「ひたびのかぎり…」
「これね、"ち"たびって読むの。もしかしたらテストで出るかもしれないから、覚えておいて。あと、春の詩に出てくる花ってイコール桜のことだって言うのも覚えておくと良いかも」
「おん、わかった」
彼のまっさらなノートにその詩が記されていく。少しぶっきらぼうな字体で恋の詩を書く様はギャップがすごく感じられた。
「なんか、昔のこういうのって悲しいのばっかりやな」
「え？そうかな…これとか一生貴方だけが好きです！って熱い気持ちが込められる気がするけど」
「花って枯れるやん。この折った花やって、どんなに丁寧に扱おうが次の春までには枯れてまうやろうし、二度とその貴方ってのと見た花は咲かへんのやから」
「シッマは、同じ桜の木でも今年の花と来年の花は違うと思うってこと？」
「違うやろ。そいつと見た桜はその時だけのもんや。見てる瞬間にも散って枯れてくから、特別なんやろ」
知らんけど。と、彼は少しだけ大人びた表情で言った。
それから何も返さない私に気づいて、彼があーいや、ちゃうねん、と先日見たように気まずそうに頭をかいた。
「夢無いこと言うようだけど…ん〜、なんやろな…」
「ねぇ、シッマ」
「ん？」
「シッマは…好きな人とか、いるの？」
「……………………は？」
心の中で冷静な私が何を突拍子の無いことを言っているんだ、とツッコミを入れるも、それを無しにすることもしなかった。すると少しの間を開けて、シッマはこちらを真っ直ぐと見て言った。
「＿＿＿いる」
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