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私たちは図書室の共有スペースの席に座り、早速勉強道具を机に広げた。彼が取りだしたのは、意外にも古文の教科書だった。
「教えてって言うから、てっきり数学とか英語とかなのかと思ってた」
「理数はそれなりに出来んねん。英語もまぁ…ぼちぼち。世界史は得意な方やし。でも国語だけはどうにもあかんねんなぁ…」
そう言いながら片手でパラパラと捲られる彼の教科書は、ほとんど線も印もなく真新しく見える。もしかして…
「…授業中、寝てる？」
「……………だって、聞いても理解出来ひんのやもん」
「定期テストは授業の内容も出るんだからちゃんと聞いてないとダメだよ。とりあえず、私のノート見せながら解説するね」
私もバックから古文のノートを取り出し、今回のテストの範囲のページを開いて彼の方に向ける。すると、彼は興味深そうにそのノートをまじまじと見つめた。
「どうかしたの？」
「…字、綺麗やなって思って」
少し伏せられたまぶたの縁を揃う長いまつ毛が揺れる。それから節のはっきりとした綺麗な指先がノートに書かれた文字をなぞって、それに魅入ってしまいすぐに言葉が出なかった。
「あ、ええっと……こっ今回の範囲、短歌だったよね！ここの授業、覚えてる？」
「いや、全く。一つもノート取ってへん」
取り乱していた私も、彼が至って真面目な顔でそう言うものだから、思わず笑ってしまった。シッマと話すのは時折ものすごく緊張するけれど、それと同じくらい楽しいし、後になって嬉しかったって思う。
「じゃあ、一つずつ教えてくから分からないところがあったら遠慮なく聞いて」
そう笑顔で言うと、彼は少しだけ下を向いて分かった、と小さく返事をした。
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