春 ページ2
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中学の卒業式で生花を渡された時の気分と同じだった。
自分で買ったわけじゃない。
どうすれば長持ちさせられるんだろう。
いつかは枯れちゃうんだ。
それなら最初からいらない。
「お母さん。少し散歩していきたいから、先に家に帰っててくれる？」
可哀想なくらい顔を青くした母に、私は努めて明るく気丈に笑ってみせた。そっか、気をつけてね。ほんの少しだけ安心したような表情でそう返事をした母とは別の道を往く。
道沿いに咲き誇る寒桜は今が見頃で、すれ違う人達はみんな朗らかな様子を漂わせて歩いていた。今日は天気も良くて、絶好の花見日和だろう。スマホから一眼レフまで、揃いも揃って花にレンズを向ける人を見て、私もほんの少しだけ写真を撮りたい気持ちが沸いたけど、もう、写真を撮るのは辞めることにした。
桜町病院前。そう表記されたバス停が目に入る。
「Aさん、落ち着いて聞いて下さいね」
そんな病院の先生の声を思い出して、制服のポケットに折り畳んで入れてあった診断書を取り出しす。もう一度目を通すけど、書いてある内容が変わってるなんてことはなく、思わず小さくため息をついてしまった。
バス停を通り過ぎる三歩前。丁度停車したバスから降りてきた人物に、思わず足を止めた。
「あっ、」
「あ、」
目が会った瞬間声が重なって、バスが再発進するまで、二人の間に沈黙が流れる。
「A…サン、」
慣れないように私の名前を呼んだ彼は、見慣れた制服を着ていた。前を開けた水色のカーディガンは腕がまくられている。白シャツは第二ボタンまで開けられていて、素行のいい生徒、というには少しズレていた。
「えっと…コネシマくん」
そう彼の名前を呼んだ。
当の彼の視線は、私の手元にあった診断書＿＿＿余命宣告書に向けられている。
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