その4 ページ4
01-3
叫び声も聞こえぬ間に、男はバタりとその場に倒れ、ピクリとも動かなくなった。
何が起こったのか把握するより早く、黒い影が上を通り過ぎてもう一人もすぐに地面に突っ伏す。
そして、路地裏は私の荒い息の音だけが聞こえ、その場には私と、黒い影のみとなった。
黒かった影は、よく目を凝らすと少し濃いめのパーカー姿の人に変わった。私がその場に立ち尽くしていると、見えないくらいの速度でナイフが首筋にあてがわられ、フードを被った人物がこちらを向いた。
「そのまま後を向け、そして振り返るな。死にたくなかったらな。」
ぼさぼさの前髪から除く黄緑色の瞳。
鋭く細められた視線に、私は釘付けになった。
そこで、何を血迷ったのかは分からない。
先程まで動かなかったはずの足がゆっくりと動いて、彼に近づく。そして、私は首にあてがわれたナイフに手を重ね、言った。
「私のこと…殺してくれませんか。」
そのセリフだけが、暗い路地裏に響く。
死にたいとか、死にたくないとか。今の私の歳くらいの時期はコロコロと意見が変わる。それは先程の彼の手際を見て、あれなら痛みを感じぬ間もなく楽に死ねるのかと思ったからなのか。自分でもわからない。
しばらくの沈黙を挟んで、彼は唐突に笑い出した。
「ふ、ははははっ!!え、なに？"殺してくれませんか"、やって？」
いきなりの笑い声にキョトンとしつつも、私は静かに頷いた。
すると彼はナイフを首に当てて浅く切りつける。浅いといえど鋭い痛みに私は顔をしかめるが、抵抗はしなかった。
それを見ていた彼はさらに楽しそうに笑う。
「んふふ…、頼まれると逆のことしたくなるんだよな〜。
なあ、君、うちにこおへんか？」
楽に死ねる以前に、私は彼に一目惚れしていたのかもしれない。
だが、偶然にも、その相手は社会の裏側で働く暗殺者だったのだ。
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