その4 ページ22
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普通棟にある俺の教室から遠い特別棟一階は、普段はあまり赴くことのない場所だった。確か美術室や家庭科室があるくらいで、授業選択のときにそれらを選ばないと実際来ることは無いはずだ。
教室から近い東側の階段から降り、前売り券を買った3年の出し物のある西側へと向かう。
その廊下の途中だった。
気付いた時には足を止めていた。
視線を向けた先にあったのは、色鮮やかな色彩に囲まれる一人のモノクロの老年の女性の絵。彼女の手には色とりどりの花が抱えられていて、そしてその本人は静かに瞼を閉じて口元を弛めている。
大きさゆえの迫力もあったが、何より全体の鮮烈さといったらなかった。それと物静かなモノクロの女性のコントラストが激しくて、目が離せない。
キャンバスの上に乗せられた絵の具の凹凸を見る限り、油絵やアクリル絵のようだ。しかし女性だけは平坦で、どうやら鉛筆で描かれたように見える。
上手いだとか下手だとか。そんな言葉ではあまりに単純すぎる様な気がして、この絵に相応しい感想の言葉がすぐに思い浮かばなかった。
しばらく絵を眺めてようやく気がついたのは、キャンバスの下に貼り付けられた紙と文章。
『色彩はあなただけが持つ特別なものだから。
あなたが見るこの景色も、胸に抱える熱い想いも、誰かに伝えたいのなら、あなた自身で描かなくてはならないよ。』
文章を読み進めると、どうやらこの言葉は絵の作者の祖母が言ったものらしい。
そしてその先の文。
＿＿＿けれど1から100までを描けたとしても、きっと始まりの0や、100を超越する私の気持ちを表すことは不可能に近いのだと、ふと確信したのは最近でした。
あなたはこの絵から、私の気持ちを全て理解できましたか？
絵に込められた気持ち。
これを描いた時、その人は何を思っていたのか。よく国語の問題である"この時の作者の気持ちを答えなさい"とは、また別物の問いだった。国語には言葉がある。しかしこの場合、言葉のないこの絵画から気持ちを想像しなくてはならない。
ああ、確かに、それは不可能に近いと俺も思う。
さらに先の文章を追えば、どうやら言葉の認識についての話があった。綺麗という言葉一つにも人それぞれの認識があって、同じ感覚を持つ人同士ではないと気持ちを共有出来ないのだと。そのような事が書かれていた。
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