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◇..
今度は十字架のないアクセサリーショップに来た。店のあちこちにキラキラと輝く商品が並んでいる。Aは見慣れない様子でその一つ一つに目を光らせていた。
「どれもとても綺麗…欲しくなってしまうわ。」
「これは綺麗なお嬢さん！うちのはどれも天然石から出来てるんだよ。」
そうAに話しかけていたのは、渦巻きの浮かぶ眼鏡をかけた男性。その話しぶりは商売上手といったふうで、迷っているAに商品の紹介を丁寧に行っていた。
「A、欲しいものがあれば俺が買ってやる。遠慮なく好きな物を選べ。」
「え、でも、私、貴方に何をしたわけでもないのに。」
「俺がそうしたくて言ってるんだ。」
「こりゃあ美男美女で羨ましいことこのうえない！そんなお二人におすすめの商品がありますよ！」
そう言ってその男性が取り出したのは、平たく月の形にかたどられたネックレス。一つだけ小さな宝石が埋め込まれていて、そのほか素材は石で出来ているようであった。
「埋め込まれているのはダイヤモンド。ダイヤには永久不変という意味が込められており、ご夫婦におすすめの宝石です。そしてこの月を形作るこの石、紛れもない、月の石で御座います！」
「月の…石……」
「はい！この月の石、どんな衝撃を与えようと絶対に割れることはありません。どうです？気に入ってくれましたか？」
先程まで他の商品に目移りしていたAの視線が、その月のネックレスに釘付けになっていた。ダイヤと月の石ということもあり、少々値が張るが、それらの素材の割にはリーズナブルな値段であろう。
そーっと様子を伺うようにAが俺に視線を写した。
「確認だが、もちろんダイヤも月の石も本物だろうな？」
「もちろんですとも！それはこの店の店主、チーノが保証致します。」
「…ならそれを頂こう。A、このまま首に提げていくか？」
「ええ！そうするわ。」
「はい、毎度あり！」
金を払い、ネックレスを受け取る。Aではなく俺に商品を渡した店主は、眼鏡の奥から目を細めてニヤリと笑いかけた。その意図を汲み取って、俺はAと向かいあう。
「A…俺が付けてやる。」
「…！ありがとう、お願いするわ。」
Aが背を向け、俺はネックレスを首にかける。変に緊張する気持ちを見て見ぬふりをして、留め具をとめる。Aの黒髪をチェーンの内側から外に出して、髪を整える。
またこちらに振り返った彼女は、とても嬉しそうに笑った。
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