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◇.
それを聞いた私は目を丸くした。
ひとらんさんは話を続ける。
「俺、魔女に会って話をしたことがあるんだ。すごく綺麗な見た目なんだけど、声を聞くにきっと男だと思うんだ…で、とにかく口の耐えないひとでね。」
私は彼の話を静かに聞いていた。彼は話をしている間、嫌な顔は一つもしなかった。
「うちで飼ってた家畜が森に逃げたことがあって、その時に出会ったんだ。どこからともなく声がして、その声に釣られたみたいに俺はいつの間にかその魔女の所にいた。
庭園のような場所に、その魔女がいた。椅子に座って紅茶を飲む魔女の足元に、逃げ出した豚が横になってて、そこで意識がハッキリした俺がありがとうございますって言って。捕まえてくれたんだと思ったから。」
話が尽きない。彼は懐かしむようにその魔女との出会いを語っていた。私も夢中になってその話に耳を傾ける。
「でも魔女が"この豚を返して欲しいなら、何か良いものをくれへんか。俺魔女やねん。なんもくれへん言うなら、お前も一緒に鍋でグツグツ煮たるで。"って。」
「グツグツ…」
「そう、グツグツって…ふっ、でね？その時にたまたまうちで育てた材料で作ったクッキー持ってたから、これしかないって渡して。
そしたらそれ食べた魔女が"なにこれうまぁっ！？"って大声上げてさ。相当口に合ったみたいで、"持ってる分全部くれ！したらお前もこの豚も見逃したる。"って。だからクッキー全部渡したら、どうやって作んの？とか、こんな美味しいお菓子初めて食べたとか、すごく褒めてくれてさ……」
ひとらんさんの移した視線の先には、収穫物と一緒に端に並んだクッキーだった。数は少ないけど、とても美味しそうに見える。
「魔女も悪いやつばかりじゃない。魔女狩りなんて物騒な行事もあるけど、俺はあれには反対かな。もしあの時会った魔女が処罰なんてされたら、法律なんて無視して助けちゃうかも。」
ひとらんさんは笑顔でそう言った。私はその顔を見て、とても苦しくなった。
悪いやつばかりじゃない。そう思ってくれる人は少ないし、善い魔女も少ないから。
「……ありがとうひとらんさん。このキャベツと三葉、それとクッキー下さい。」
「ん？こちらこそありがとう。キャベツと三葉とクッキーね。」
毎度あり。
ひとらんさんから品物を受け取り、私は彼の店から足を進める。
道中、買ったクッキーを一つ取り出して口にする。程よい甘さと焼き加減。彼と同じ、とても優しい味がした。
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