【d!】月の魔女と愛念の呪い【gr】 (ページ26)

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トントンと会話を交わしていると、その様子を見ていたAはその後、トントンの創り出した氷壁に手を触れてそれを驚嘆の目で眺めていた。

「これ……トントンさんが創ったのですか…？」

「えと…創ったっていうか、生み出したって感じやな、」

「生み出した？」

ぎこちない返しをするトントンに代わり、俺は二人の会話に割って入り、説明をする。

「A。この手の科学魔法には道理がある。水のない所に氷は生まれない。」

「水を創り出しているの？」

「いや、元々ある空気中の水分を利用してるんだ。それを決まった式に基づいて魔法術式を編み、氷を生み出す。と言うより、水を氷に変えたと言った方がわかり易いか。」

科学魔法は一般的に、呪文や術式を口に出して右手の紋章に宿る魔力を利用して編み出すか、決まった魔法陣を描き、その魔法陣自体から魔術を編み出すかの二択である。脳内で意識したり想像したりするだけで魔法術を使いこなすことが出来るのは、偏に科学魔法では無く本物の魔法を使いこなす魔女のみである。
彼女には科学魔法の考え方がないため、トントンのいう"生み出した"の理由がいまいち掴み取れなかったのだろう。

溶けて崩れたら危ないからと、トントンが氷壁に右手を触れて解除魔法を使い、元の水蒸気の状態に氷壁を戻した。
闘技場の半分を占めていた氷壁は跡形もなくなり、そこには冷気だけが残っている。

「年中着けてると暑苦しく見えるが、今はお前のそのマフラーが羨ましいな。」

「これが無いと俺、氷の魔法使ったら寒さで凍死してまうからな…」

「夏でも着けてるよな。」

トントンは主に氷の魔法術を使うのだが、彼自身、その氷魔法のせいで年中防寒対策をしざるを得ないのだ。彼も科学魔法を使うだけであって、元は生身の人間故、寒さにそこまで体制があるわけではない。

それを聞いた彼女はトントンには聞こえない程の小さな声で「人は大変ね」とぼやいたのに対して、俺は少しだけ笑った。