#09-4 JK ページ32
電車とバスを乗り継いで、ソウルを離れて1時間半。
潮の香りが近づいてくる。
すっかり日が沈んだ後とあって、砂浜にはほとんど人がいないけれど、周囲に立ち並ぶ屋台は賑やかで。
香ばしい香りにジョングクの食欲が刺激される。
一軒のチキン屋さんに目をつけて、ユナに声をかけた。
ドーナッツを見ていたときのように、興味津々といった表情であたりを見回すユナに、「もしかして」と尋ねると、やっぱり「食べたことがない」と答えが返ってきて。
ーーーヨジャドルの食事制限は厳しいって聞いてるけど、こんなに厳しいんだ。
チキンが食べれない生活だなんて、想像するだけでゾッとする。
「食べたくないかな」と他の店を提案したジョングクにユナは首を振った。
遠慮がちに、でも「食べてみたい」と目を輝かせるユナに、「僕が共犯です」と、いつかのように囁くと、ユナも悪戯げな顔をした。
チキンと飲み物を手に、二人は砂浜へと降りる。
街灯のない砂浜は、真っ暗で。
どこか座れるところはないかとジョングクが周囲を見渡していると、不意にユナがしゃがみ込んだ。
指先で砂をすくって、かき分けて。
ユナはそれを何度も繰り返す。
「…何か、探し物ですか」
YN「、耳骨を」
「じこつ？」
YN「、イルカの、耳骨です」
「いるかの、じこつ」
YN「、イルカの耳骨は、幸運のお守りなんです」
ぽつりと、ユナが呟いた。
ーーーイルカの耳骨。
その言葉を聞いた途端、ジョングクの心臓が大きな音を立てた。
ーーー、あのペンダント。
乳白色の、石のようなものがついたペンダント。
ユナが、最後に会った時にくれたあのペンダント。
大事に持ち歩いていたそれをテヒョンに見られた時、彼に言われたのだ。
「イルカの耳骨だ！グガ、これどこで買ったの？」と。
「イルカの耳骨ってなんですか」と尋ねたジョングクにテヒョンは「昔から幸運のお守りって言われてて、すっごく珍しいものなんだよ」と教えてくれた。
ユナがそんな大事なものをくれたのだと知って、ジョングクはすごく嬉しかったのだ。
ーーーユナさんは、覚えているだろうか、あのペンダントのことを。
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作者名：kamome | 作成日時：2023年1月16日 17時
