007：昨日(轟side) ページ8
ーーー昨日、放課後
まだやることがあると言ったAを学校に残し、俺は先に帰宅していた。
『私は要領悪くて個性も地味だから、人よりずっと頑張らなきゃいけないんだ』
小さいときから、いつもそう言って人一倍努力しているのを見てきた。
一緒に受けてきた親父の訓練も、あいつは泣き顔ひとつ見せなかった。
「(Aは、充分強い)」
そう思いながら、俺もひとり、道場で訓練していた。
夜。
両親がいないAは、今日の夕飯は俺の家で一緒に食べると朝言っていた。
でも、いくら待っても現れない。
メールの返事もないし、電話も繋がらない。家にもいない。
今までこんなことはなかった。
まだ学校にいるのかと思ったが、学校には誰もいないと電話に出た相澤先生に告げられた。
ーーもしかして、帰り道で何かあったのか…？
嫌な想像を振り払い、家を飛び出した。
夜道をただ、闇雲に走った。
昔遊んだ公園、通学路にある河原。
ーーどこにいるんだ…！！
心配した相澤先生も駆けつけ、一緒に探してくれた。
ーーー
「いたぞ」
相澤先生から連絡があった場所に駆けつける。
学校から駅に繋がる道の途中。
その暗い路地裏。
力なく座り込むAの目は虚ろで、相澤先生の呼びかけには何も答えない。
「A」
近付いて髪を撫でる。反応はない。
外傷はないように見える。衣服の乱れもないと思う。
一体、何があったんだ？
「A…」
もう一度名前を呼んで、優しく抱きしめる。
Aの体は冷え切っていた。
「焦、凍…」
小さく声を発した。
反応があったことに少し安心する。
一瞬ののち、ハッとするようにAは体を引きはがした。
「触ら、ないでっ…」
「A？」
なにも答えない代わりに、涙をポロポロとこぼす。
泣くとこ、久々に見た…
元々あまり泣かないやつだった。
人前でなんて、絶対に泣かない。
なのに。
考えるより前に、再びAを抱きしめていた。強く、離れないように。
Aも今度は抵抗しなかった。
ただ一言…
「優しく、しないで…」
ーーー
その後、相澤先生に礼を言い帰宅、一人にさせるのは心配だったから俺の家に泊まってもらうことにした。
Aは、何も話してはくれなかった。
まだ落ち着かないのかもしれない、そう思って俺も必要以上には聞かなかった。
きっといつか話してくれる。
そのときは、そう信じていたんだ。
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作者名：海月 | 作成日時：2017年6月19日 23時
