013：あの場所 ページ14
目的の場所の前で、立ち止まる。
確か、ここだった。
「一昨日、私、ここにいたの？」
「そう、だが…どうして」
「今朝、焦凍くんずっとここ見てたよね？だからそうかなって」
路地裏に足を踏み入れる。
薄暗くて、雨が降っていたせいか湿り気がある。
なんでだろう…鼓動が早くなる。
「お前はここにいた」
少し奥のほうを指差し、低い声で焦凍くんが言った。
ここに…いたのか…
何故？私は何をしていた？
こんな路地裏、普通なら入らない。
何も、思い出せないし、わからないのに
「ハァッ…ハッ、ハァ…」
呼吸が乱れて、胸が苦しい。
ふと、背中に手が置かれる。
「おい、大丈夫か！？」
焦凍くん…
さっきまでの胸につかえるような苦しさがスーッと引いていく。
「(…不思議……)」
「A、無理しなくても…」
「ううん…私、早く思い出したいんだ。それがどんな記憶でも。だって…」
きっと私は、一人じゃない。
「焦凍くんは私を支えてくれるんでしょ？」
「………！」
…朝から驚くことばかりだった。
でもその中で焦凍くんの想いを感じた。
いつでも私を気にかけてくれて、一番に考えてくれている。
そんな彼のこと、忘れてるなんて。
「焦凍くんのことも、思い出したい。思い出して、ちゃんとお礼言いたい」
「…辛くなったら言えよ」
答える代わりに、振り向いて笑顔を向けた。
しばらく路地裏にいたが、何も思い出せなかった。
やっぱり、解けるのを待つしかないのか…
自分の個性なだけに、その効果のほどもわかってる。
焦凍くんと一緒にとぼとぼと帰路につく。
「付き合ってもらったのに、ごめん」
「少しずつで、いい」
ほんとはすぐにでも思い出して欲しいくせに。
そんな優しさが嬉しいんだけど、なんだかむず痒くて少し笑ってしまう。
「今日も、俺ん家泊まるか？」
「うん」
「…考えないんだな」
「…一緒にいたいからね」
イケメンだからとかそういうのもあるけど、多分、それだけじゃない。
握られる手が、少し強くなった。
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作者名：海月 | 作成日時：2017年6月19日 23時
