【実況者】こちら、本拠地です。 (ページ30)

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心臓が締め付けられるように痛い。けれどこれは仕方ないのだ。まだ選ぶことが出来ない弱い私の、思考。今の私にはこの選択肢しか残されていない。祢糸を追い出す形で探させに行かせてから数分後、空を仰ぎ見て力なく項垂れた。

「アホじゃんか…私」

感情が昂ったまま祢糸の左頬を叩いてしまった。そのあまりにもリアルな感覚がまだ右手に残ってる。あの二人も、絶対に傷つけたくなかった。それが祢糸には叩いてしまって絡斗には諦められた。このザマだ、笑える。
…笑える筈なのに。そう思っていると再び扉が開いた。今度は影が二つ。まだ帰ってなかったとそっと安堵の息を漏らす。

「それで、俺まで連れ出して…俺への当て付けか？」

「答え合わせ、早くしてよ」

期待とか怒りとか諸々混ざってよく分からない四つの瞳を見つめてなるべく自然に笑う。

「私には、まだ選べない。それはさっきと変わらない。けど、私は」

不意にそこで言葉が途切れて、代わりに涙が溢れて止まらなかった。
違う、泣くために呼びだしたんじゃない。答えを言うためだ。なのに幾ら止まれと願っても
意志に反して流れ続ける。涙声のまま強制的に続ける

「私は……二人が、大好きなの」

息を飲んだのは果たしてどちらか。あるいは両方なのか、わからない。
そう、私には答えがこれしかなかった。何故私は絶対に傷つけたくないのか。二人が実況者だから、確かに迷惑をかけるわけにはいかない。けれど本質はそれだけなのだろうか。この答えに辿り着いた時、核心故の残酷さを意識し辛くなった。

「ごめん、ね…」

俯いて訳の分からない涙を流して、そんな姿を見られたくなくて急いで帰ろうとした時。割と強い力で肩を掴まれた。痛い痛い骨が粉砕玉砕大喝采するまえに死ぬからマジで痛いってちょっとは手加減してってば。

「痛いって…」

「わり、手加減できなかった…」

「俺らの答え、聞かずに帰るのか？」

「どーゆーこと…」

そう問うと二人の視線だけがかち合って頷いて絡斗が彼にしては明るい声でこう言った。そして、何故か笑っていた。

「ちゃんと、待つから。俺もねがも」

「うん」

残酷な回答をしたはずなのに、どうしてそんな風に笑ってくれるのだろうか。顔がくしゃりと歪んだのを意識する前に大粒の涙を零した。泣くのは私じゃなくて向こうのはずでそう思っても涙が止まる気配はしなくて。完全下校時刻になる寸前まで泣きじゃくっていた。