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「僕だって、するよ。こういうこと」
寒さから、目尻が赤くなった彼の目が、じいと私を見つめる。バクバクと心臓が鳴って、剣持先輩に聞こえるんじゃないかと焦る。
「……いままで、しなかった」
「じゃあこれから」
「なにそれ、突然すぎませんか」
彼は、少し考えるように目線を外したあと、「少女漫画で読んだから」と言って笑った。
なにそれ、なにそれ、なんか、ずるい。
「少女漫画で読んだことするなら、他のこともやらなきゃダメですよ」
「攻めるね」
「べつに、剣持先輩の真似です」
む、と唇を突き出してみる。マスクで隠れて見えないだろうけど。それでも少し拗ねた声が出て、剣持先輩がくすくす笑った。
「そうだな、他になんかあったかな」
「えぇ〜覚えてないんですか？」
「思い出してるんだって」
静まり返った住宅街を神社に向かい歩きながら。
「あ、名前呼び？」
「…えぇ、メジャーすぎますよ」
「メジャーなことできてないけどな今」
「付き合ってないもん」
そう口に出してから、後悔した。もっとかわいい返事があったはずなのに、付き合ってないもん、なんて、可愛くない。
何も返さず、ただ私の手を引いて歩く剣持先輩を恐る恐る見上げてみれば、ぱちりと目があった。
「…僕が読んだやつは、付き合う前からしてたけど」
「……そうなんですね」
変な沈黙が流れて、少しだけ焦る。もっとかわいい返事をしないといけないのに、なんでこうもぶっきらぼうになってしまうのか。
はぁ、とため息をついた私は油断していた。だから、それが鼓膜を震わせたとき、思わず立ち止まってしまって、だから、きっと顔も赤かった。それは、うん。寒さのせいだけど。
名前
呟かれるみたいにして、呼ばれた。
「なんですか？」とか「違和感ある！」とか、得意なはずの切り返しも全然できなくて、ただ、唇を噛んでもれそうになった変な声を抑え込んだ。
「…少女漫画では、相手の女の子も呼んでたけど」
わかってる。剣持先輩が言いやすいように、してくれているのは。けど、私をこんな風にしたのも剣持先輩なのに。
ドクドクと大きくなる脈に、どんどん体温が上がっていく。
「呼べないの？」
揶揄うみたいにそういう彼の耳だって、赤いのに。寒さからだけど。うん。
「………刀也、先輩」
「…うん、」
多分、私、死んじゃうんじゃないかな。
こんなに、心臓が早くて、目の前で彼が笑ってて。繋いだ手があったかくて。
多分、死んじゃう
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作者名：でん太郎
| 作成日時：2022年10月28日 22時
