しんじゃう ページ49
"今から初詣行かない？"
剣持先輩からそんな連絡が来たのは年が明けて数分後のことだった。彼はついさきほどまでにじさんじ歌謡祭の司会を務めていたはずで、勉強の息抜きにと観ていたこともありそんな余裕があるのだろうかと首を傾げる。かと言って断る理由もなく二つ返事でYesと答える。
"1時にそっち着くから、出れる準備しといて"
続けざまに送られてきたそれらにスタンプ返し、トーク画面はそれから動かなくなった。
それから、深夜も深夜、午前1時半。準備をしておけと言われ、すぐにコートやらマフラーやら手袋やらを準備した私は、そのまま寝落ちたらしい。けたたましい着信音に飛び起きた私は時計を見、携帯を見、窓の外を見、それはもうチーターの全力疾走にも負けないスピードで玄関の外へと走り出た。
「刀也先輩ごめんなさいほんとうに！！寝てた！！！」
「…殺されるかと思った」
「ごめんなさいほんとねえまってあったかいお茶淹れてきます少しだけ寄って行って、みんな寝てるけど、許される」
「いやいいよ、神社で甘酒配ってるだろうし、結局外寒いし」
「…うん、ごめんなさい、」
30分前に1件の着信履歴。それから5分おきに呼びかけのメッセージ。私は30分間も極寒の深夜に剣持先輩を放り出していた。夜中に家のチャイムを鳴らすのも、彼には躊躇われただろう。「木白のことだしまぁ、寝てるかなとは思った」なんて笑う剣持先輩の顔はマスクで隠れて見えなかったけど、ダウンの袖から出た指先は真っ赤になっている。
「…手袋、使います？」
「木白の手小さいからサイズ合わないでしょ」
「これお父さんから奪ったやつだから多分平気！私指余ってるし」
「今すぐお父さんに謝ってこい」
彼からきゃらきゃらと笑い声が溢れ、住宅街に響く。慌てて口を塞いだ彼は「じゃあ、ありがたく」と私から手袋を片方だけ受け取る。
「…一つでいいんですか？」
「木白寒いだろ両方借りたら」
一つだけでも、両方でも、寒いのは変わらない気がするけど…。
「っぅぇ？」
首を傾げた私の手を、彼の手が包んだ。思わず、おかしな声が出る。
「あははっどんな声だしてんの」
「ぇ、ぇ？……え？剣持先輩そんな少女漫画みたいなことするタイプですか？」
「…してるだろ、現在進行形で」
「しっ、してるけど！！なんか！ぽくない！」
声が大きくなり、剣持先輩の手、というか手袋で口を塞がれる。もごもごと顔を動かしていれば、彼の顔がすぐそばまで近づいた。
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作者名：でん太郎
| 作成日時：2022年10月28日 22時
