ポメラニアン、拾いました。 (ページ9)

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「ず、く、は？」

「う"ぅ」

「は、ず、く？」

「ぁう"ぅ"ー」

こいつ“葛葉”を知らねぇな

そう確信したのは女が俺の名前で頭を悩ませている最中だった

く、ず、は

女がその3つの文字を与えてみても全く予想もつかないといった様子で首を傾げたからだ

俺がポメラニアンになってから1日…いやもうすぐで2日

体の奥に閉じ込められた魔力は一向に戻る気配を見せず、破ることも難しそうだ

流石にこの状態で外に出ても何もできないどころか不便で仕方がないだろう

そう考えた俺は、俺が飼い主に捨てられた可哀想な子犬だと思い込んでいる女に飼われる事にした

しかし、だ

1つ問題があった

女が“葛葉”を知っていた場合

知っているだけならばまだしもファンであった場合、最悪アンチであった場合、共に生活する中で俺が元の姿に戻った時、惨事になりかねない

だからとりあえず名前を伝え、その反応を伺ったわけだが

(死ぬほどそういう文化に興味ねぇなこいつ)

女が一人で住むには広すぎるマンションの一室

俺が見たのは玄関と風呂場とリビングのみだが、相当物が少ない

そんな数少ないものの中の更に少ない雑誌や世間を知るためのそう言った類のもの

それらは全て外国のものかファッション誌らしく、にじさんじを目にしたことがある様子もない

更に加えて言えば先程女が俺を風呂場から閉め出した時、リビングに来てみれば開きっぱなしのノートパソコン

問答無用でYouTubeとTwitterを開いてみたがアカウントすらなかった

なんだこいつ

まあ、ともかくこの女なら大丈夫そうなわけだ

そんなこんなで女の家に住み着く事にした俺は女の顔を見上げた

なかなかに整った叶似の顔である

ちなみにこの女、性格は全く叶に似ていない

捨て犬(仮)の俺に心を痛め心底悲しそうな顔をしたり、まず犬を拾ってきたり

叶にはない慈悲の心がある

あぁ、でも勘が良かったり部屋に物がない感じはやっぱ叶と一緒だ

…こいつなら言葉通じたりしねえ？

なんて考えて叶と似ているこいつなら、なんて期待が生まれ、俺は早速女に話しかける

［お前の名前、教えろ］

心の中では言葉を発しているつもりでも実際に音となってって出てくるのは小型犬特有の高い鳴き声だけ

女は俺が何か伝えようとしているということは理解したらしかったが、俺の亡き声がなにを意味するかまではわからなかったようだ
細い首を傾げ「ごめんね」と謝るだけで俺の質問には答えない