ポメラニアン、拾いました。 (ページ34)

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「…びっくりしたなぁ」

私のそんな声が浴室に響いた

突然「本心で話せよ」なんて問い詰めてきたと思いきや大きな声で風呂に入りたい、なんて叫んだ葛葉のためにバスタブを洗っているのだ

いやまぁ、犬になってからは初めてあったあの日以来葛葉はお風呂に入っていない

それを考えればたしかに気持ちはわからなく無いのだけれど、タイミングとか声量とかがあまりにも謎すぎる

まぁ犬だと思って拾ったのが実は吸血鬼だったり実の母親が結婚相手を見つけるまで息子をポメラニアンに変えてしまうような世界なのだ、このくらい謎と言うには足元にも及ばないのかもしれないん

「そうだきっとそうだ」なんてひとりで勝手に頷き納得した私はバスタブの中に沢山くっついている洗剤の泡をシャワーで流していく

「んー、よし」

泡をひとしきり流し終わった私はシャワーのレバーを捻りお湯を止める
そしてバスタブの蓋を閉めて、横にある自動風呂沸かしスイッチを押せばあとは簡単
何もしなくても30分も経たずにお風呂がわくっていうわけだ

これで完了！と勢いよく立ち上がった私は目の前が万華鏡のように歪むのを感じた
うねる視界と回転する脳

あ、やばい
そう思った時には私の体はお風呂場の床に叩きつけられていて、洋服に水が染み込んだ

「はる！？」

あぁ、だいぶ大きい音がたってしまったのか
慌てたような葛葉の声が聞こえ、心配するなと声を出そうとしたが、上手くいかない

「っちょ、はる、、？えぇ、こういう時どうすりゃいんだよ…」

いや頼りないな

頼りないな

頭ではいくらでもそう考えられるのにいざ口を開くと出てくるのは意味の無い音だけ
おかしいな、熱っぽいわけじゃないし何より今まで風邪のひとつも引いてこなかったのに、なんで

「ぇと、あ"ぁもう！悪い触る！！！」

さわる、とは

そう思った瞬間私の体は浮き上がり、目の前にはジャージに包まれた葛葉の胸板が見えた

…どこにそんな力があるんだ

そんなことを思っているうちに葛葉は私を抱えたまま寝室へ向かっていく
その間にも段々と見えなくなっていく視界と回らなくなる思考

もう、むり、

遂に自分の中の糸が切れる、そう感じた瞬間から私の視界は真っ黒に塗りつぶされた

葛葉の「っおい！？」なんて焦った声は聞こえたような聞こえなかったような……