ポメラニアン、拾いました。 (ページ16)

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「…つか、信じてくれるんすか」

目の前の黒ジャージの男性は小さな声で、こちらの様子を伺う様にそう声にした

それは随分と怯えたような声で、いや、ポメラニアンのくずはがこの目の前の男性に姿を変えてからずっと、この人はまるで私を怖がるようにしている

信じてくれるのか

その疑問に私は少し首を捻った

あぁ、私がこんなにも直ぐに信じた様子を見せたことに驚いているのか

私もこの目で犬が人に変わる瞬間を見ていなければ信じなかっただろう

しかし、見てしまったのだから仕方がない

そうでなければくずはがいなくなり、この男性が代わりに目をぱちくりとさせて座っていたことの説明もつかない

「信じざるおえないですから」

「そ、すか」

それ以降訪れる沈黙

気になることは色々あるが、この怯えたようなおどおどとした男性の話し方

きっと他人が苦手なのだ

無理に話しかけても可哀想かもしれない

そう思ってのだんまりだったが、逆効果だったようで

男性はきょときょととあたりを見回しては座る姿勢を変え、私の顔を盗み見る
そんな行動を繰り返した

そんな様子が少しかわいそうになり私は口をひらく

「あの」

「っ」

「あ、えっとおどろかないでください」

「ぁ、すんません…」

「いえ、あの、元に戻った理由とかって、心当たりあったりしますか？」

私の声に肩を跳ねさせた男性に驚くな、と笑ってみせる

これでこの男性の恐怖心を和らげることができていればよいのだが、果たしてそれがどのような効果を及ぼしているかはわからない

私の質問に男性は艶やかな銀髪を揺らし、首を傾げる

くずはと同じ真っ赤に耀くルビーの瞳は長くしなやかな睫毛の生えた瞼が伏せられたことによりその3分の2ほどが見えなくなった

うーん、中々に美形

しかし、くずはと重ねてしまうからか、かっこいいとは思えないら、むしろ吊り目のくせに怯えたように体を縮こまらせ眉尻を垂れさせるものだから、かわいいとすら思える

私がそんなふうに考えているとも知らず男性はしばらくの間頭を抱え顎に手をやり目を瞑り、さまざまなポーズを座ったままとったあと、ふと私の目を見つめた

「もしかしたら、なんすけど」

男性の小さな声が鼓膜を震わせる

その間も男性は私の目から視線を外すことはなく、朱の奥で光る何かに私の脈が少しだけ、駆け足になった

「…はい」

「口と口が、ぶつかったから、とか」

「…はい？」

私の素っ頓狂な声が部屋に響いた