ポメラニアン、拾いました。 (ページ14)

今日:32 hit、昨日:64 hit、合計:299,971 hit

9 ページ14

そんなこんなで、俺は今日も全力でこの家から出ようと試みる

朝、女が言ったのだ

「お昼ご飯食べたら私一回大学に戻るね」

と

そうだ、今まで女が帰ってくるタイミングでしか試したことがなかったが、女が家を出ようとしているその時、女が家に背を向けているその時ならば、もしかしたら成功するかもしれない

もし成功したら、まずは自分の家を探そう

俺は今自分がいるこの家がどこなのかもわかっていない

そして、見つけたらここへ戻ってこよう

そうすれば女が心配することもないだろ

そんなことを考えているうちに、女が立ち上がり、コートへ手を伸ばした
女はコートを着て、カバンを下げて、玄関へ歩き出す

よし、そのまま玄関の扉を開けろ

そうだ、そのまま！！！

金属のぶつかる、鈍く小気味いい音が玄関のホールに響いたと同時に、俺は走り出した

いけ！玄関まで一直線に！

「あっ、筆箱忘れた！」
［え］

今にも開きそうだった玄関の扉は、女がそう呟いたと同時にまた、その体で外への出入り口を閉ざしてしまった

いや、そんなことは問題ではない

今問題なのは

［女ぁぁぁ！！！そこどけぇぇぇぇぶつかるぁぁあああ！！！！！］
「くずはぁっいっ！？！」

頭と頭がぶつかる音

女がそう呟いてこちらを振り返った時、俺はすでにハイジャンプを決めていて、目指すは女の顔面一直線

そう、俺の顔と女の顔が激突した

激突の衝撃でアニメのような白い煙が上がったような気さえする。重心が安定しない脳みそと衝突の恐怖からくる早い鼓動

「ぅ…いったぁ…くずは、何でそんなジャンプ…を……ぇ？？？」

その煙が収まり女の姿が見えた時、女は心底驚いたような困惑したような、そんな表情でこちらを見つめていた

…そんなに俺のジャンプに驚いた…？

女の表情に少し罪悪感を覚えながらも、大丈夫か、と口を開いたとき、違和感を感じた

ポメラニアン特有の柔らかい毛が口に入ってこない
よくよく考えてみれば、視線の高さだって随分と高くなった。なんなら手だって俺の手で、顔の前で握ったり開いたりを繰り返すうちに段々と頭がはっきりしてくる

「…俺、元に戻った？」「…ねえ、もしかしてくずは？」

女の声と、俺の声が重なった