8 ページ13
「くずは？ご飯食べよー！」
あれから一週間が経ち、女のこの声ももうすっかりと耳に聞き馴染んだ
女はこの一週間、毎日朝早くに出かけて行っては昼になると帰ってきて、俺に昼ごはんを与えてからは仕事だと言って部屋に閉じこもり夜遅くまで出てこない
どういう仕事をしているのかと思えば女の口ぶりからどうやら大学生であることが判明した
そして、女は今をかける売れっ子デザイナーだということも
なるほど納得
どうりで家は高級マンションで部屋はリビングダイニングを除き4つ
いわゆる4LDKというやつだ
そのうちひとつは仕事部屋、もうひとつは寝室。後の２つは物置と化している
どうすれば若い女ひとりでこんな裕福な生活ができるのかと思っていたら、そういうことだったのだ
俺は目の前に出された犬用に味を薄くしたらしいササミのスープに口をつけながら、部屋を見渡した
そんな一週間
女のことは色々知れたが俺の体は一向に元に戻る気配を感じさせず、俺の中の魔力は殻にとじ込められたままだった
そろそろ怖くなってくる
理由もわからず犬の姿になって一週間
犬の姿では解決策を探すこともままならない
いや、探そうとはした
この家から出ようと女が帰ってくるタイミングを見計らい、ドアからこの小さい体を出そうと何度も試みた
それはもう、何度も
しかしそんな俺の頑張りは虚しくも女の腕に抱かれるという形で阻止されてしまうのだ
…この女中々に手強い
目の前で幸せそうにサンドイッチを頬張りながら、たまに俺に視線を向け、俺が飯を食っているかを確認してまた自分も食事にありつく
こんな、アホっぽくて小さくて細っこくて今にも病気で死にますみたいなくらい白い肌の、弱そうな女
甘くみてはいけない
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 816人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：でん太郎
| 作成日時：2022年10月8日 20時
