キミを拉致せよ、一月九日。 (ページ8)

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七日ページ8

そんな中出会ったのが問題のキチガイ男だった

最初はとても優しく絶対に自分の意見を人に押し付けることの無い、しかし筋の通ったできた男だったらしい。

だかそれは時が経つにつれ崩れ落ち、全く違う人物へ変貌を遂げた。いい関係が築け、同棲を始めた頃だったらしい、友人との飲み会で遅くに帰宅した堤さんに「俺に一言も言わずこんなに遅くなるなんて何事だ」と声を荒らげた

それが始まりで堤さんの生活は今までにないほど息苦しいものに変わったのだと言った

何をするにもその男の言うことが絶対でそれを破れば最悪手をあげられることもあった。何度も別れたいと別れをきりだしたがその度に数日間は軟禁状態になった。

そうして、先日やっと男の隙を付き逃げ出すことに成功した。そんな堤さんが頼ったのが幼い頃、母親の元によく訪ねてきていた俺の母親だったわけだ。

堤さんと俺の母親は元々顔見知りで仲もそこそこよく母さんは何かある度堤さんに「しんどかったら頼っていい」と言い続けていたらしい

確かに俺が小学生の頃、母さんはよく「仲のいい友人の元へ行く」と言って家を空けることが多かった

本当にそれが堤さんの母親の事だったかは分からないが多分それだと思う

そんな漫画でしか見ないような壮絶な過去を聞いた俺が出せたのは「…そうだったんですか」の一言

もっと気の利いたことを言えないのか、と自分のことを叱り飛ばしたかったが堤さんはそんな俺を見越してか「重い話をしてしまいすみません…。お世話になる方なのでいちおうはなしておかなければと思って…」と言って俯いてしまった

それでも何も言えない俺に堤さんは「だから、三枝さんが匿ってくれるって言っていただけて本当にありがたかったんです」と笑い「すみません、生活のことに関して決めましょう」と俺に話の続きを促した

俺を気遣ってそう言った堤さんは最初のような弱弱しい声ではなくて、確かに声は小さいし震えているし、どもってはいたけどしっかり俺の目を見て笑った

俺の目を見つめる堤さんの瞳は奥で何か藍色の薄暗いものが揺らいでいて、それでいて俺の部屋に差し込む昼時の日差しを優しく反射していた

「とりあえず、配信…」

その瞳の色が忘れられないまま俺は小さく呟いて部屋の扉に唐辛子をひっかけてからゆっくりとドアノブを回し、扉を閉めた。

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