キミを拉致せよ、一月九日。 (ページ25)

今日:7 hit、昨日:10 hit、合計:61,956 hit

※※※ ページ25

153日(にち)。私(わたし)と彼(かれ)が過(す)ごした時間(じかん)だ。赤(あか)ん坊(ぼう)が一人(ひとり)で寝返(ねがえ)りを打(う)てるようになるまでと、同(おな)じ時間(じかん)。人間(にんげん)一人(ひとり)に対(たい)してなら情(情)でも恋慕(れんぼ)でも憎悪(ぞうお)でも、それなりの感情(かんじょう)を持(も)つにはふさわしいと言(い)えるだろう。
　153日間(にちかん)。私(わたし)は彼(かれ)の行動(こうどう)を見(み)ていたし、それらはどれも素晴(すば)らしく私(わたし)の心(こころ)をときめかせたし、実際(じっさい)それらがなければ結局結論(けっきょくけつろん)にすら辿(たど)り着(つ)かなかったはずだ。
　それでも私(わたし)の心(こころ)にひときわ強;つよ()く輝いたのは彼(かれ).の、とびきりカッコ悪(わる)くてとびきりかっこいい、その姿(すがた)だった。

「テメェに名前さんの横(よこ)に立(た)つ資格(しかく)ねぇよクズ！！」

　ありきたりで家(いえ)を出(で)て一歩(いっぽ)の道路(どうろ)に転(ころ)がっていそうな怒声(どせい)だって、私(わたし)にとっては世界一周(せかいいっしゅう)の旅(たび)に出(で)た先(さき)の海底(かいてい)で見(み)つけた真珠(しんじゅ)だった。
　自分(じぶん)より二回(ふたまわ)りもガタイのいい男(おとこ)に立(た)ち向(む)かい、殴(なぐ)り飛(と)ばされても私(わたし)にそれを近(ちか)づかさせまいと縋(すが)り付(つ)いた彼(かれ)は間違(まちが)いなく世界一格好良(せかいいちかっこうよ)かった。
　人殺(ひとごろ)しと生(い)きる男(おとこ)だ。鈍器(どんき)で頭(あたま)を殴(なぐ)られたって刺(さ)されたってボロボロになったって生(い)きていてくれなくちゃ、困(こま)る。

　まぁなんだ。私(わたし)が言(い)いたいのはただひとつだ。

　諸君(しょくん)。私(わたし)の夫(おっと)は世界一(せかいいち)であるぞ。