二十二日 ページ23
その日はすぐに訪れた。
三枝さんの友人と紹介された彼は、銀に染まった髪の所々にマゼンタを隠し、インナーには紫を透かした。
この人は、苦手だ。そう思ったのは彼に何かされたわけでも時間を経て彼の性格がわかったからでもない。ただ、彼が細めた何色とも言い表せない瞳が人のいい弓なりに変わるのが。「名前ちゃん」なんて近く呼ぶくせに始めて言葉を交わしてから四時間が経っても取れない敬語が。つい半年前私の隣にいたあの人を彷彿とさせて、背に冷や汗が伝ったから。
「まだ、慣れん?」
彼がそう切り出したのは、中々話が弾まない私たちを見かねた三枝さんが助け舟として提案したゲームのプレイ中だった。
彼の向こうで突然固まった空気に心配そうな顔をしている三枝さんがいて、思わず助けを求めるように声を上げかけ、飲み込んだ。彼の目が、画面に向きつづけていたから。
この人も、優しいんだ。それでいて、聡い。私が自分に好感を持てていないことはおろか、その理由が彼の笑い方であること、接し方であることすらも察してしまったんじゃないか。だからあえて私を見ない。敬語だって、今突然外して。彼の席になんて微塵も無いのに。
「…三枝さんのお友達と言われて、言い方がよくはないけど、悪い人じゃないってことはわかってる…というか信じられるんです。ただ、やっぱりまだ男性があまり、すみません」
あの人の雰囲気なんて微塵も感じない三枝さんですら動画越しとはいえ慣れるのに1ヶ月が必要だった。あの人のところから逃げ出した後、関わりを持っている男性は三枝さんだけで、男性どころか人間との接触が三枝さんと三枝さんのお母さん、不破さんを入れて三人目なのだ。決して、不破さんが嫌いというわけでは無い。
どうか、気を悪くしないでほしい。
「…んははぁ、明那信頼されてんねえ」
「えっ!?あっ??そ、そうか?」
「やっ、信頼、させてもらってます…」
彼はからからと笑った。自分は気にしていない、私に負担をかけたくなかっただけ、と言って。
「じゃあ名前ちゃんまた」
「…また」
ひら、と手を振る彼にお辞儀を返す。結局あの後、私が彼に慣れることは無くて、けど彼は「何かあったらいつでも」と連絡先をくれた。彼を駅まで送りに行くと言った三枝さんについて行くと言ったのは、私だった。
「…不破さん、優しい人ですね」
「うん、悪いやつじゃ無いんで、何かあったら頼ってやってください。喜ぶと思います」
「…はい」
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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年11月28日 21時