キミを拉致せよ、一月九日。 (ページ20)

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十九日ページ20

「お仕事、やっぱりはいしんされてるんですね！」

やはり、彼の仕事は配信業なのだ。納得があった私の言葉に、彼が渋い顔を作る。

あれ、なにか、まずかっただろうか…

「…知ってたんですか」

三枝さんの絞り出すような低音に思わず眉を寄せる。そんなに、いやなことだったのだろうか。そんなにも、タブーであったのだろうか。

「…すみません、勝手に、予想していて、、」
「や、おれこそ、軽率でした」

「……でも、素敵だと思いますよ」
「あー、りがとうございます、まぁ増えてきてます、よね最近」
「はい、増えてるはずです、」

「デジタル営業」「Vtuber」

「え？」「え？」

ぽかんっと目を丸くする三枝さん。私と彼が同時に発した言葉の意味は、確実に異なっていて、何かしらの誤解が発生して新しいことを瞬時に悟る。

「…ぶい、ちゅーばー…？」「デジタル営業………？」

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「あっははははは！！、ひぃっ、やっやばい！！あははは！！！」
「ねぇやだ笑いすぎですよ！！」

目の前で体を二つ折りにしてゲラゲラと笑う彼はVtuberというものをしているらしい。なにやら生じてしまった誤解を解こうと互いに話を聞けば私が昼に聞いたあの叫び声は同じくVtuberをしている友人と配信をしていだとのことで。なるほど私の知見は自覚していたよりもずっと狭かったらしい。

ただ、その文化を全くと言っていいほど知らなかっただけであまりおかしなことを言った自覚はなくて、それでも彼はこの2週間の間でどの瞬間よりも大きく声をあげ笑った。目尻に涙が浮かぶほどに、肩で息をするほどに笑い続けて、それから「自意識過剰に変な反応してすみません」と謝った。

「…なにかやらかしたのかと思っちゃいましたよ」
「え"っそんなに変な顔してましたか」
「渋柿よりもしぶーーい顔してました」
「ヤバそれは渋すぎ案件」

散々笑われたあと、拗ねたように頬を膨らませて、そこでやっと私は、自分がこの人に対して関係の糸を紡ぎ始めたことに気がついた。そしてまた、それは自分だけではないことにも。

三枝さんの自宅で匿ってもらいはじめてから今日で14日。その間、私たちが交わしたコミュニケーションと言えば朝の挨拶と中々抜けない私の家電を使います宣言くらいで。それに対して三枝さんは毎度毎度丁寧に返事をしてくれるから。

ただほんとうにそれだけ。

それなのに、この明るい笑顔に私はどうしようもない安心感を覚えてしまったのだ。