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プロローグ ページ1




コンクリートを叩く硬く慌ただしい小さな足音が路地裏に響く。

足音の持ち主は度々後ろを振り返りながら夜も更けた住宅街を疾走していた。


「はっ、はぁ、、っはぁ…」


その少女は急いているようであった。
まるで何かに追われているかのように一目散に住宅街を駆け抜ける。

荒い息が白く曇った水蒸気として体外に吐き出された。決して健康的とは言えない青白い肌には汗がその頬を伝い地面にシミを作る。

無造作に伸びたカラスの羽のように黒い髪の毛は風に煽られ大きく翻った。


「はやく、はやく…っ」


少女の唇から零れる焦りの滲んだ小さな声は暗く沈む夜闇に溶け消えてしまう。

息は乱れ気管がぜろぜろと嫌な音を立てたが少女に立ち止まる気は毛頭なかった。

どんなに息が切れようと、どんなに体が疲れようと少女はある家を目指し左右の足をただひたすらに動かすのだ。


 


「っ着いた!」


どれだけ走っただろうか。

すでに足は棒のようで動かす気力もなってはいないだろう。

その少女は住宅街に建ち並ぶ家の中からクリーム色の壁に瓦屋根、ドアは焦げ茶色と何の変哲もない一軒家の前で足を止め、その表札をかぶりつくように確認する。

それが自分の求めていた場所だということを確認した少女は乱れた呼吸を整える暇もなく、少女はその家のインターホンを数回連打した。

少女の喉からは苦しげな吃音が漏れている。


『どなた様でしょうか…ってはるちゃん!?』


インターホンから聞こえたのは幾分か年のいった女性の声。

夜中の訪問者に怪訝な声を出していたが、それもインターホン越しに疲れて廃れた少女の姿を視認するとそれもすぐに焦りの声に変わった。


「はるちゃんっ!!」


少女が返答する間もなく家の中から騒がしい物音が聞こえ片開きのドアが勢いよく開く。家の中から姿を現したのは60代だろうか、黒髪に混じる白をゆるくまとめたふっくらと肉付きの良い柔らかそうな体型の女性だった。


「はるちゃん、私ずっと心配して…そんなに痩せちゃってかわいそうに、あの男は?追ってきてないの?それよりもまずは休まなくちゃ…家に入りましょう」


女性はそう言って少女の痛々しいほど肉の落ちた小さな肩を引き寄せた。少女は女性に言われるがまま肩を抱かれ家の中へ姿を消した。


外に残されたのは血の滲んだ少女の手で撫で着けられた表札のみ。

そこには古めかしい明朝体で「三枝」と記されていた。



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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年11月28日 21時

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