嘘つきカップル (ページ6)

今日:35 hit、昨日:136 hit、合計:263,951 hit

_3 ページ6

「まっ、ちゃんと断れたならいいんですよ。それじゃあ、」
「えっ、まって！」

そう言うなり、くるりと踵を返し北校舎へと入っていく刀也くんを、私は思わず、袖を掴み引き止めた。

「あぇ、どうしました？」
「え、いや…」

どうしました？って、それはこちらのセリフではないだろうか。もしかして用もないのに話しかけにきた…？何のために？
ぐるぐると彼の行動について考えていると、フッと溢れるような笑いが聞こえた。見れば目の前の彼がくすくすと小さく笑っている。

「な、何でわら…」
「Aさん、面白いですよねほんと」
「何が…！？」
「わかりやすいところが」

わかりやすいところ、そう言った刀也くんは私に向き直り、そっと私の頰に手を伸ばした。触れるか触れないか、まだ彼の包帯が巻かれた手のひらは私の頰に触っていないのに、なぜかぴりぴりと変な熱を帯びる。

「大好きな彼女が他の男に告られてるのが心配になって見にきた彼氏、じゃダメですか？」
「…え」
「…はは、Aさんやっぱり面白いですよ」

力の緩んだ私の手から刀也くんの腕はするりと抜けていく。それじゃあ、と今度こそ北校舎へ消えていった彼の後ろ姿に、私は何も言えなかった。それどころか、まだピリピリと暖かい右頬に、動けもしなかった。

「…触りは、しないんだ」

いつも通り、人気の無くなった中庭で私は1人、そう呟いた。

　

「Aおそいよー！！」
「ごめんりりむちゃん」
「せっかく食堂まであっために行ったのに、お弁当冷めちゃったよ」
「えっ先食べてくれて良かったのに！」
「Aと食べたいのにそれじゃあ意味ないでしょ！」

もう！なんてぷんぷんという効果音が似合う怒り方をするりりむちゃんに、罪悪感がわく。

「ごめんごめん、でも次体育だから、急いで食べないとね」
「りりむ食べるの早いよ！」
「嘘つかない、私より遅いのに何言ってるの」
「むっ、でも、まだ15分あるもん」

りりむちゃんの言葉で時計を見れば、確かに昼休みが終わるまで後15分。でも、体育着に着替えるのに5分を取って、移動時間も含めなら食事時間なんてないに等しくて、、

とそこまで考えた私は大変な事実に気がついてしまった。