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彼の真意はすぐに察することができた。あれだけ特別と謳われる人でも、やっぱり人間なのだと改めて認識すると同時に、彼の底が見えた気がした。それから、私と彼の出鱈目な契約関係が始まった
しかし彼には実意を隠すつもりがないと知った時、手を、繋がれた時だった、廃れた契約関係に身を置いていたのは自分だけだと悟った。これが彼のやり方なのだと、つまり、彼なりのアプローチなのだと。そして、全てを知った気でいた私はまんまと彼の手中に収まっていたのだと。
誤。利益のためだけの契約関係に私の恋慕を加えた図。
正。互いの利益は、契約を結ばなくとも実っているのだ。
「終わりです。僕らにはこの関係でいるメリットがもう無い」
ザ、とコンクリートに靴底のゴムが擦れる音がして、刀也くんが私の目の前に立った。
「それに、ただの高校生である僕らが人間関係を構築する上でメリットデメリットを考えていたんじゃ、成るものも成らないし」
「ねぇAさん。好きです。親愛でも友愛でもなく、恋愛対象として、性対象として、好きです。Aさんの家庭環境を聞いて、足の先だけでもそれに関わって、それで情が沸いたとか、そういうのもあるかもしれないけど、それよりもずっと前から、好きなんです」
かっぽりと大口を開けたような秋空だった。刀也くんは身じろぎ一つせず私を見つめていて。
「…余計なところまで話すぎるよね、君は。刀也くんが私のことを好きなんて、とっくに気づいてたよ。わかりやすいね、案外。疑ってなんか無い、性対象とかは余計な一言だから言わない方がいいかも。言いたいことはわかるけど。
別に、どこで情が湧いてたって関係ない、いいよ、なんでも。私と、君の、好きって気持ちが噛み合ってればそれで」
「紙面上みたいに明確な範囲も決まりもないけどさ、不確定で不安定だけどさ、口約束、…私の彼氏になってくれますか?」
「…剣持刀也の彼女になってくれますか」
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「どの辺を好きになった、って…うーん…なんか、こう…やたら頭良くてまどろっこしい感じ…?」
「好きになる部分の初期設定バグってない?」
「いや、ちがうかも。自分は人とは違う、みたいな顔してやってることは二番煎じに片足突っ込んでる感じ…」
「もはや嫌いな所の域だと思うけどそれ」
「あはは、まぁいいじゃん、それでも好きなんだよ」
美人っていうのは、ずるいと思う。
やたら頑丈に猫を被っているようで、それを外すことを厭わない。その中身が外面のいい被り物より見劣りしても、常人の数段上の魅力を持つ。
あぁ、こういうところかな。彼女が言っているのは。
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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月2日 17時