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「ぅ、え??」

そんな情けない声が出る。
原因は紛れもなく隣を歩く彼。びたっと足を止めた私を置いて、一歩二歩。振り返った彼は同じ言葉を口にした。

「だから、契約やめましょう。お互いの利益のための交際関係を、終わりにしようって言ってるんです」

しっかりと私の目を見据えるエメラルドの瞳。きゅ、と閉じられた唇。それは私の「好き」という言葉への返答だった。

的外れ。と言えばそうだし、大的中。と言っても当てはまる。
元々彼と私の関係はお互いの利益のためのもので、利益とは煩わしい恋愛のすったもんだを避けること。それが、私に惚れられたんじゃ彼はたまったものじゃない。というのが、この関係に私の恋慕を加えた図。

しかし、私とて伊達に女子高校生をやっていない。色恋のあれこれは嫌というほど聞いてきた。彼氏が冷たいだとか、好きな人に好きな人がいるかもしれないだとか、両思いだと思っても勇気が出ない、とか。そんな話を聞いているうちに、聞いているだけだったけど、それなりの知識や勘は身につくらしい。

彼は、刀也くんは、剣持刀也は、私のことが好きだ。

彼が告白を血も涙もなくアッサリ断るというのは、この学校に通う女子生徒ならば知らない話ではない。

「あなたには興味がない」
「その時間って、不毛じゃありませんか」
「僕のことをたいして知りもしないのに好きと言える心持ちだけ、すごいと思います」

あっけなく思いを跳ね返された女子のながす信憑性のかけらも無いそれらだったけど、火の無い所に煙は立たないというばかりに、まるで精金良玉というような見てくれの日本男児をいまいち信頼しきれない私がいた。そしてまた、共に委員会活動をするたび、友人として言葉を交わすたび、噂に聞く彼は本当なのだと、そう確信していった。ただ、その言葉の受け取り方に問題があるだけで、それは彼なりの、期待をさせないという優しさなのだとも。

それ以外に、私は彼を知らなかったし、知ろうとも思わなかった。仲の良いクラスメイト。その立ち位置になんの不満も疑問も抱かなかった。
彼の口から契約を持ち掛けられるまでは。

ただ、興味本位だった。自分に向いた行為を煩わしく思うことはあっても、排除しようとはおもわなかった。高校を卒業してしまえばなくなる関係だと割り切っていた。それでも彼の誘いになったのは、「利益」を口にする彼の表情に、決して冷めぬ熱を見たからだった。笑顔も拗ねたような顔も少しむくれた頰も、何かに打ち込む真剣な顔も、惜しげもなくそれらを晒す彼が見せた初めての顔に、心を揺すられたからだった。

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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月2日 17時

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