嘘つきカップル (ページ43)

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ぐい、と引かれた背中と、僕の名前を呼んだ彼女の声に振り向けば、そこにはAさんがいて。え？なんでそんな髪ボサボサになってるんだ。さっきお母さんらしき人といなかった？あれ、勘違い？

Aさんどうしたんですか、という前に彼女は勢いよく隣にいたガクくんの方へ首を向けて、

「っ刀也くん借りていいですか！？」
「え、えぇ？いいっすけど、Aちゃんどうしたんだ？」
「……お母さんに刀也くん紹介したくて」

「えぇっ！？」と声を上げたのはガクくんと、僕も同じで。途端どうぞどうぞで僕の背中をAさんの方へ押し出したガクくんと、ありがとう！なんて笑顔のAさんに手を引かれ。

「えぇ、え？昨日言ってたのほんとにするんですか？」
「うん！ちょっと違うけど！」
「えぇ、分かんないな…」

人混みに流されそうになりながらも僕の手を引いて歩く彼女の後ろをついて、立ち止まった目の前には甘栗色の髪の毛をふわふわと揺らす女性の前。似てないなとか、若いな、とか、色々思ったけどその前に、Aさんを見て「髪ボサボサにして何してるの、直しなさい」なんて彼女の頭を撫でつけた女性は、確かに彼女の母親なんだと認識した。

「…場所変えてもいい？」

__

Aさんについてやってきたのは文化祭も真っ只中だというのにひゅう、と吹いた風が木の葉を揺らす音が聞こえるほど人気の少ない校舎と校舎の間。

「…刀也くん」
「はい」
「ごめんね急に、ありがとう」
「あぁ全然、もう解散しようかって話してたし」

ありがとう、ともう一度笑うAさんは、次に女性を振り返る。

「お母さん、この人が、紹介したい人、です」

紹介、という言葉にハッとする。そうだ、Aさんは僕をお母さんに紹介するって、でも、昨日話したのとは違う…？彼氏として、ではなくて、では何として？

「…私の、好きな人です」

「え？」と、声を上げたのは僕だけだった。

「剣持刀也くん、で、……私の力になってくれて、優しくしてくれて、笑わせてくれて、それから、頭が良くて、運動ができて、、えっと、」
「…A」
「っはい、」
「刀也くん、困ってるよ」

すん、と表情の抜け落ちた顔で僕を見た女性に、少し肩を張る。

「あ、えっと、ごめ、」
「大体、対面で紹介するなら付き合ってからにしなさい。好きな人ですって、私にいってどうするの。いうなら、刀也くんに！」

え？そんな？そんなこと僕の前でやる？なんて、僕の混乱はよそにAさんのお母さんは「まぁ紹介したい人は紹介されたし、私からは何もないし、帰るね」とそそくさいなくなってしまって。あ、これ親子だなって、こんなところで2度目の実感。