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「…おかえりをいってくれるんじゃないの?メイドさんは」
「…えぇ、、お、おかえりなさいませ…」

たしかに、呼んだのは私だけど、まさかお客さんとして来るなんて、思わなくて、固まったままの私をお母さんがなんとかつついて動かした。

「…自由シフトの時に、一緒に回ろうって考えてたんだけど…」
「娘の出し物も見ておきたいでしょう」
「えぇ……っと、ご注文は、」
「いちごのパンケーキで」
「かしこまりましたー…」


「…いちごパンケーキ!いち!!」

乱暴に注文を書き殴り、キッチンへと入った私を、樋口さんが不思議そうな目で見る。

「どしたん?荒れてんなぁ」
「…お母さんが、きた」
「へえ!どれどれ?」
「…あの、5番テーブル、」
「へぇー、似とらんね、美形やけどタイプちゃうくない?」
「んんー、私お父さん似なんだよね、」
「なるほどね、」

なるほど、と言ったきり何かを考えるようなポーズで固まる樋口さん。

「…どうしたの?」
「うーん、決めた。Aちゃんちょち早いけどお母さんと回ってき!」
「え!?あと1時間あるよ!?」
「ええねんええねん!いざとなったら私が出るから!」
「ええぇ、え、え、まってまって押さないでとりあえず着替えさせて!!」


 


__


ぐいぐいと背中を押されらようにしてパンケーキを平らげたお母さんと共に教室の外へ放り出される。
にっこり笑顔の「いってらっしゃいませ」を添えて。

「…いいの?A」
「うん、なんか、ほぼ追い出された…」
「いいなら、いいんだけど、」

あはは、と笑って見せればお母さんは少しだけ考えるそぶりを見せて、

「Aが紹介したいって言ってた子のところ、行きましょう」
「あっーー、うん、いこう」

そうだ、お母さんの言葉で思い出す。今日は、お母さんに刀也くんのことを紹介しようと思って、けど、刀也くんは午前中がフリーで、どこにいるのか…。と、携帯が振動して、送り主はなんと刀也くん。ナイスタイミング、なんて思いながらメッセージをひらけば、そこには私とお母さんの後ろ姿を撮った写真が。

「…行かなくても、いいかも」
「え?」

振り向いて、数歩先。優しげなペリドットが笑って、小さく手を振った。

「刀也く、」

あ、これ違う。がんばれの、エールだ。くるりと、背中を向けた刀也くんは伏見くんと合流して、だんだん遠くなって、

「お母さんごめんちょっと待ってて!」
「えっちょっとA!」
「すぐもどる!」

かけだして。人混みに突っ込んで。
後少しのところで触れられない彼のブレザーに、必死に手を伸ばして、

「っ刀也くん!」

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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月2日 17時

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